Dharmacon テクニカルサポート
第1回 コントロール試薬の使い方
サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、日頃Dharmacon製品をご利用いただいているお客様からさまざまなお問合せをいただいております。バイオサイエンスメールでは今号から8回のシリーズで、お客様の実験サポートをテーマにした記事をお送りさせていただきます。記念すべき第一回目のテーマは 「コントロール試薬の使い方(ポジティブコントロール編)」です。今号と次号に渡りましてRNAi実験でのコントロール実験の組み立て方と製品の使用方法についてお話します。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 牛山)
siRNA実験でコントロールをお使いですか?
siRNAの実験においてコントロールの使い方はとても重要です。コントロールとはいうまでもなく、いわゆるポジコン(ポジティブコントロール)、またはネガコン(ネガティブコントロール)のことです。どちらも一般的な実験では日常的に使われていると思いますが、お客様からいただく問合せの中でsiRNA実験のコントロールについてのご質問はたくさん寄せられ、中には適切にコントロールを使われていないケースもときどきあります。
コントロールsiRNAとは?
siRNA実験でのポジティブコントロールとは「特定の遺伝子を確実にノックダウンするsiRNA」です。一方、ネガティブコントロールとは「どの遺伝子もノックダウンすることのないsiRNA」です。ただしこれは理想的な話で、実際にはポジティブコントロールは「特定の細胞で特定の遺伝子をノックダウンすることが確認されたsiRNA」、ネガティブコントロールは「どの遺伝子に対してもノックダウンがなるべく少ないことが確認されたsiRNA」となります。
コントロールsiRNAが大切な理由
何故このようなコントロールを使うのか、という点についてはsiRNAの原理に戻って考えると理解しやすいと思います。siRNAは長さが21塩基前後の二本鎖RNAで、細胞内に導入すると二本鎖のうちの1本鎖のRNA(アンチセンス鎖)が構成因子とともにRISC(RNA induced silencing complex)と呼ばれる複合体を形成します。RISCは取り込んだRNAと相補的な配列をもつRNAを認識・切断し、ターゲット遺伝子のノックダウンを引き起こします。つまりsiRNAの作用メカニズムは、(1) siRNAの細胞への導入、(2) RISCの形成、(3) ターゲットRNAの切断、の大きく3つのステップに分けられます。siRNAの実験ではこの3つが鍵といえます。siRNAによるノックダウンが十分に起きるためには、siRNAが十分に細胞に導入され、siRNAによりRISCが形成されるメカニズムが働き、またそのsiRNAが十分に機能するための適切な配列をもっていることが重要です。siRNA実験のコントロールは実験操作自体が適切であることの確認として使われるのはもちろんですが、これらの点をきちんと評価する上でとても重要となります。

図1 RNAiのパスウェイ
細胞内で短いRNA二本鎖(siRNA)は構成因子とともにRISCを形成します。RISCはATPによって活性化されると(RISC*)、ターゲットのmRNAを認識し切断します。
ポジコンの実際例
それではポジティブコントロールの実際例を挙げます。「特定の細胞で特定の遺伝子をノックダウンすることが確認されているsiRNA」としては、恒常的かつ高発現のハウスキーピング遺伝子をターゲットとしたsiRNAが一般的です。Dharmacon製品ではGAPDH、Lamin A/C、Cyclophilin BをターゲットしたポジティブコントロールsiRNAがあります。いずれも特定の細胞でターゲット遺伝子を十分にノックダウンすることが確認されたsiRNAです。
ポジコンを使った条件検討
siRNA実験の1つめのポイントはsiRNAが十分に細胞に導入されることです。この導入(トランスフェクション)の条件は、使っている細胞で条件が確立されている場合には良いですが、情報がない場合は条件検討が必須になります。また、情報があったとしても実験環境が変わるなどして必ずしも同じように再現できるとは限らないので、この場合もやはりある程度の条件検討は必要になるでしょう。ポジティブコントロールsiRNA(例えばGAPDH)は効果が確認済みの適切な配列をもつsiRNAなので、これを使ってトランスフェクション条件検討を進めます。トランスフェクション試薬の種類と濃度、siRNAの濃度、細胞数などをパラメーターとして、GAPDHのmRNA発現量をリアルタイムPCRなどで確認していき系統的に条件を最適化します(実際にはネガティブコントロールも同時に使います。ネガティブコントロールについては次回取り上げる予定です)。条件が適切であればGAPDHがほぼノックダウン(80~90%もしくはそれ以上)された結果になります。このようにして大体の条件を絞った上でターゲットsiRNAを使った実験を行うようにすれば、労力や時間・実験コストを無駄にせずに実験が進められます。
条件検討にはポジコンが必須?
ときおりいただくお問合せとして、「トランスフェクションの条件検討はターゲットのsiRNAを使って行うので、ポジティブコントロールsiRNAは必要ないのではないか」というのがあります。興味があるのはターゲットのsiRNAなので、それを使った条件検討を行うことは確かに一理あります。しかしこの場合、もしターゲットのsiRNAで十分なノックダウンが見られない場合、問題点がトランスフェクション条件なのか、siRNAなのか、さらにはリアルタイムPCRを含めた検出系なのか、という切り分けが難しくなってしまいます。実際にsiRNAのノックダウン効率が低いという相談をいただくことがありますが、ポジティブコントロールを使っていないケースでは、問題点がどこにあるのか判断つかず、トラブル解決の時間も余計にかかることが多いです。
確実な結果を得るために
siRNAの実験条件検討は面倒そうに思えるかもしれませんが、実際にはsiRNAの最適実験条件はピンポイントというわけではありません。おおよその実験条件が決まれば十分ということが多いのが実際のところでしょう。どの実験にもある程度の条件検討はつきものです。コントロールsiRNAを適切に使うことが確実に良い実験結果を得るための王道かつ近道といえるでしょう。






