Dharmacon テクノロジー
第1回 SMARTselection algorism

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific Dharmacon製品を開発しています。バイオサイエンスメールでは今号から9回のシリーズで、RNAi実験で最も注目される製品機能の「ノックダウン効果」「オフターゲット効果」「長期サイレンシング効果」を支えるDharmaconテクノロジーをご紹介します。創刊号の今号では「ノックダウン効果」の屋台骨ともいえる「SMARTselection algorism」についてお話します。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 大島)

配列デザインにまつわる歴史的な背景

Tuschlらの研究により、3’末端にオーバーハングを持つ19-25merのRNA duplexが細胞内に見出され、siRNAと名づけられました。彼らの研究の成果より、高いノックダウン効果を持つsiRNA配列(構造)を作成するための“Conventional”なガイドラインが作成されました(文献1)。現在多くの有償/無償のsiRNA配列設計ツールが入手可能になっていますが、これらはTuschlらの研究により見出された“Conventional”な方法を用いたものです。このようなデザインツールは、siRNA配列を簡便に選択するには役立ちますが、ターゲット遺伝子の特性を考慮していないため、研究者はこれらの方法を用いて作成されたsiRNAを評価するための数多くの実験を行う必要があります。siRNAの配列や構造を決定するストラテジーは、もともと細胞内のリボザイムやアンチセンスオリゴの研究からスタートし、このアプローチはmRNAの2次構造や結合アフィニティーを含むmRNA分解にフォーカスした手法でした。

世の中に存在する配列デザインの設計方法

実際に現在使われているデザインの方法は (1)ランダムデザイン、(2) 従来法(Conventional Design)、(3) 有理的手法(Rational Design)の3つに大別することができます。それでは、個々の方法についてさらに詳しく話を進めることにしましょう。

1) ランダムデザイン

この方法は、ターゲットとなるmRNAの配列内でランダムに19-21merの配列を選択する方法です。この配列は5’および3’末端の非翻訳領域や、 ORFを除いた配列から選択されています。このランダムデザインは、systematic approachesを用いて機能性siRNAを特定しようとする研究者に最も広く使われている方法です。しかし、Functional genomics やTarget validationのためのツールとして機能的なsiRNAを作成利用する際には、あまりおすすめできません。実際の実験において、ランダムデザインによってつくられたsiRNAは、ターゲットとする遺伝子によってノックダウン効率のばらつきが大きくなります。また、ターゲット遺伝子をノックダウンする難易度を予測するのも非常に難しくなります。いくつかの遺伝子に関しては、ランダムデザインを用いて設計された siRNAの8割は90%の効率でノックダウンができましたが、いくつかの遺伝子に関しては、ランダムデザイン、および後述の従来法によるデザインを使用して、有効なノックダウンをもたらすターゲットの配列を選択するのは不可能でした。ランダムデザイン、および従来法によるデザインを使用する場合、機能的なsiRNAを特定するために、通常1ターゲット毎に3-20ものsiRNAsを設計しています(表1)。ランダムデザインを用いてsiRNAを設計するためには、最初にmRNA上のターゲット配列を選択し、配列特異性と結合能力をデータベースやツール、実際の実験などによって確認していく必要があります。この確認作業に費やす時間や試薬コストなどが問題となる場合があります。もし、既存データベースにある配列とsiRNA配列の比較を慎重に行わなければ、オフターゲット効果が起こる可能性が大きくなります。オフターゲット効果は、ターゲット遺伝子に非常に近い遺伝子ファミリー間で頻繁に起こります。これは実験の結果に間違った解釈をおこす可能性が高いです。

2) 従来法(Conventional Design)

この方法は、Tuschlらによって考案された、シンプルなパラメータを基にBLASTn解析を用いながら19-21merの配列を設計するものです(文献2)。従来法は多くのデザインツールの基本として使われていますが、機能的なsiRNAを選択する信頼性に欠けることがあります。この手法を用いた場合、機能的なsiRNAを選択する成功率が一定とならないため、研究者はしばしば3種類以上のsiRNAから機能的なsiRNAを実験などによって選択する必要があります。この従来法においては、ターゲット配列の選択は、Tuschlらの定めた独自のガイドラインに沿って行われます。また、選択のパラメータはショウジョウバエや哺乳動物細胞のセルライセートを用いた生化学的実験から得られたものが用いられています。

従来法によるsiRNA配列の選択手順の概略を以下に示します。(図1)

  1. スタートコドンから下流75-100bpの領域は、転写/調節タンパクが関与する部分なので除外する。
  2. 残りの領域より、AA(N19)TTモチーフを検索(N19=任意の19塩基)。合致する配列がない場合は、条件を緩和し、NA(N21)で再検索。TTはDuplexの3’オーバーハングになる。
  3. 選択したsiRNAのGC含有が50%に近くなるようにする(Tsuchlらのガイドラインでは30-70%)。
  4. 候補siRNA配列をBLASTサーチし、ESTsと比較する

この従来法に利用されているシンプルなパラメータは、無償で配布されているsiRNAデザインプログラムに利用されています。このような計算ツールは、 siRNA配列のスクリーニングを容易にします。また多くの研究機関などがWeb上などでこのような計算ツールを公開しています。従来法を用いた多くのデザインツールは、既存データベースにアクセスすることで利用することが可能となっています。したがって、このようなデザインツールの優劣は、デザインプログラムがどこまで自動検索可能かということで決定します。もし、利用しているsiRNAが無償提供される従来のsiRNAデザインプログラムを用いてデザインされたものであれば、その配列の機能性についてスクリーニングを行う必要があります。この場合、統計学的に、ターゲット遺伝子の確実なサイレンシングには最大20以上のsiRNAを設計しスクリーニングする必要があります。それは、従来法によるデザインには、限られた数のパラメータのみを用いているためであり、設計されたsiRNAのスクリーニングにかかる時間や費用を考えれば、商業的に提供されるデザインサービスを利用する方がコストや時間の短縮につながることになります。

3) 有理的手法(Rational Design)

有理的手法(Rational Design)は、1つのmRNAに対してsiRNA配列を最適化する目的で作成されたコンピューテショナルな方法です。ターゲットのシーケンスを検索し、その中で最適なsiRNA配列を同定していきます。しかしながら、すべての有理的手法が同一のものではありません。いくつかのプラットフォームでは、従来法のパラメータを改変しただけのものもあり、一方ではさまざまな工夫を取り入れたものまで千差万別にさまざま存在します。

mRNA

図1 従来法によるsiRNAの選択
mRNA のコーディング領域中から、GC含有率が約50%になる、AA+N19(AAから始まり、任意の19塩基が続く、合計21塩基)またはNA+N19から始まる配列を選択する。非翻訳領域(untranslated region, UTR)およびスタートコドンから75-100塩基は調節タンパクなどの相互作用があるため、この選択領域からは除かれる。選択された配列の最初の AA(リーダー配列)は最終的なsiRNAデュプレックスには使われず、このAAの代わりにUUまたはTTが付加され、この部分がオーバーハングとなる。初期の研究において、RNA2本鎖はヌクレアーゼ耐性を持つことが示唆されたため、siRNA二本鎖にはTTのオーバーハングが付けられるようになった。

SMARTselection algorismとは

Thermo Scientific DharmaconのsiRNA配列デザインの礎となっているSMARTselection ストラテジーは有理的手法(Rational Design)のパイオニアであり、多くの配列情報とサーモダイナミックパラメーターを融合した、重み付けされたアルゴリズムを採用しています。また、 SMARTselectionデザインはオフターゲット効果を最小にするように、ユニークなsiRNA配列を設計するバイオインフォマティクス解析を取り入れています。SMARTselectionアルゴリズムは、1)機能的なsiRNAとの親和性を指標としたターゲット配列の評価、2)システマティックな配列比較、3)siRNA候補配列からノックダウン機能を果たさない配列の排除、の大きな特長を持っています。これらアルゴリズムは、Reynoldらの定義したパラメータをおのおの重み付けし組み合わせたマルチコンポーネントとなっています(文献3)。(これらパラメータは図2に詳細記載)おのおののパラメータのみではその選択性に限界があり、重み付けされたパラメータを組み合わせることで多数のsiRNA候補配列から機能性の高いsiRNA配列を選択することができるようになります。

Wet実験による評価

SMARTselectionアルゴリズムは、全ての遺伝子をターゲットとする数万のsiRNA配列に対して実験的に評価されており(注釈1)、ターゲット遺伝子に対しての機能的なsiRNAを選別しています。図3はhuman GAPDH mRNAをターゲットとして、SMARTselectionアルゴリズムが実際に機能をもつsiRNAを適切に選択していることを示しています。この実例の中で、従来法により設計されたsiRNAとSMARTselectionアルゴリズムによって設計されたsiRNAのノックダウン能力が定量的に比較されています(注釈2)。このターゲット遺伝子(human GAPDH)については、従来法により設計されたsiRNAを用いた場合のノックダウンレベルは大きく変化するのに対し、SMARTselectionアルゴリズムによって設計されたsiRNAでは一貫してF95以上を示しています。

注釈 1: 実験では100nMのsiRNAを用いています。このような高濃度のsiRNAを利用することで、遺伝子発現の強さ(細胞内のmRNA量)に依存せずに発現抑制を確認することができるので、一般的にスクリーニングなどの用途で使われる濃度です。一度配列特異的なノックダウンが確認できれば、濃度を下げ(100nMから1nM)、遺伝子ノックダウンに適したsiRNA濃度を決定します。

注釈 2: このようなデザインツールを比較するために、まずは定量的な指標となるF値を定義しました。F値とは100nMのsiRNAを用いて細胞をトランスフェクションし、24-48時間後のターゲットmRNA発現量の減少率を示す数値です。すなわち、F90,F80,F70はそれぞれ遺伝子発現の抑制率 90%,80%,70%を示しています。ReynoldsらはこのF値をもちい、>=F70, <F50のカットオフ値にてランダムに作成されたsiRNAの半分以上が機能を有するものであることを示しました。(16)

SMARTselectionアルゴリズムが実証するノックダウン効果の強さと長さ

SMARTselectionアルゴリズムによって設計されたsiRNAの優位な点は、そのノックダウン能力の強さにもあります。図4は高効率な siRNA(=F95)は低濃度でのノックダウン効率も高いことを示しています。たとえば、human SEAP遺伝子においては、F95のsiRNAを1nM用いることで、ターゲット遺伝子の発現を95%減少させます。対照的に、F80のsiRNAは、ターゲット遺伝子の発現を80%減少させるのに10nMが必要です。siRNAの量を減少させることは、用量依存的なオフターゲット効果や細胞毒性をもたらす可能性を最小化することになります。よって、より低容量で有効なsiRNAを使用することが望ましいことになります。さらに、図5に示すように SMARTselectionアルゴリズムによって設計された抑制効果の高いsiRNAはそのノックダウンの持続時間が延長されることが観察されています。たとえば、SMARTselectionアルゴリズムによって設計された高効率のsiRNA(F95) は、ターゲットによって異なりますが、7日間以上ターゲットのノックダウンが継続し、F70のような抑制効率の低いsiRNAはノックダウン効果の持続時間が短いことがわかりました。

Figure 2

図2 siRNAの機能性を示すノックダウント時間の長さ
(A)ノックダウン時間とsiRNAの機能性の相関を調べるため、同一のターゲット遺伝子に対応する独立した5つのsiRNAを SMARTSelectionによって作成した。これら5つのsiRNAは、F70-F95までのF値を持つものである(グラフに記載されているF値を持つ5つのsiRNAを用いた)。グラフの縦軸はターゲット遺伝子の発現、横軸はトランスフェクション後の経過時間を示す。一般的に、機能性の高い(F値の高い)siRNAほど長時間、ターゲット遺伝子のノックダウンが継続する。 (B)様々な遺伝子をターゲットにした、SMARTSelectionによって作成されたsiRNAの比較。1ターゲット遺伝子に対し4種類の siRNA(およびそれらを混合したpool)を用い、グラフの縦軸はターゲット遺伝子の発現、横軸はターゲット遺伝子と4種類のsiRNAおよび poolを示す。SMARTSelectionによってされた4種類のsiRNAおよびpoolそれぞれが、ターゲット遺伝子の高いノックダウン能力を持つことがわかる。P=pool, C=Control.

最後に

有理的手法は有効なsiRNAを設計するための現在最も先進的な手法です。SMARTselectionアルゴリズムによって決定されたsiRNAは、現在最も機能的であると考えられます。さらにsiRNAに化学修飾を行うことで、配列特異的なターゲット遺伝子のノックダウンをより確実に行うことができます。