Dharmacon テクノロジー
(第2回 SMARTpool テクノロジー)

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、 お客様のニーズに応えるThermo Scientific Dharmacon製品を開発しています。 バイオサイエンスメールでは前号から9回のシリーズで、RNAi実験で最も注目される製品機能の「ノックダウン効果」「オフターゲット効果」「長期サイレンシング効果」を支える Dharmaconテクノロジーをご紹介しています。第2号では、前号の「SMARTselection algorism」に続き、「オフターゲット効果」を抑制するための技術の一つである「SMARTpool テクノロジー」についてご紹介します。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 大島)

細胞内では、さまざまな配列のsiRNAが”Pool”として存在している

Tuschlらの研究により細胞内に見出されたsiRNAは通常、細胞内で長い前駆体dsRNAがDicerと呼ばれるRNaseIII酵素の1つによって切断されることによって作られます。細胞内では、このようなsiRNAは普遍的に産生されており、細胞内にはさまざまな配列を持った21-23merの siRNAが多量に存在しています。(図1) このような”Pool”として細胞内に多量に存在するsiRNAは、そのターゲットとなる遺伝子のノックダウンを引き起こしますが、それ以上にVirusの感染防御をになったり、トランスポゾンの拡散防止にも役立っています。

図1 細胞内ではsiRNAはPoolとして存在する

図1 細胞内ではsiRNAはPoolとして存在する
(A)哺乳動物細胞において、Dicerは長いdsRNAを切断し、siRNAの”Pool”を作る。これらのsiRNAはおのおのがRISC複合体を形成する。 (B)細胞内の本来のsiRNAの状態に従い、複数のsiRNAをPoolとして用いた場合。この場合、配列設計によってそのターゲット遺伝子やサイレンシング効率がコントロールされる。

SMARTSelectionにより作成されたsiRNAは、Poolとして用いてもノックダウン効果を高く保持できる

RNAi実験の初期には、従来法(Conventional Design) によってsiRNAをデザインして、ひとつのターゲット遺伝子に対して複数合成し、これらを混ぜて細胞内に導入していました。これは細胞内での状態(Pool)をまねて、細胞内での本来のRNAiのパスウェイにより近づけた発現抑制を行うことが実験系として効果的であると考えられたからです。しかしながら、このような手法で作成され、Poolとして用いられたsiRNAのノックダウン効果が減少することが観察されました。これは、細胞内に有限である RISC複合体が、Pool化されたsiRNAの中の機能性の低いものに消費されてしまい、より機能性の高いsiRNAがRNAiの機構に取り込まれることを妨げていることが原因であると考えられました。「Pool化はノックダウン効果を減少させる」という考え方は、このような知見から得られてきたものです。 弊社では有理的手法(Rational Design)により作成された、同一ターゲットを認識する4種類のsiRNAをPoolとして用いることで、そのノックダウン効果がPoolとしても高く保たれることを見出しました(図2)。また、複数のターゲット遺伝子を対象にした別の実験によれば、95%以上のノックダウン効果をもつsiRNA(F95のsiRNA)の割合が、従来法を用いて作成された場合は26.7%であったのに対し、SMARTSelectionにより作成された場合は61.5%、これをさらにPoolにした場合は 97.8%という結果を得ました(Data presented at RNAi Boston, 2004)。

SMARTSelection により作成されたsiRNAのPool(SMARTpool)の高いノックダウン効果

図2 SMARTSelection により作成されたsiRNAのPool(SMARTpool)の高いノックダウン効果
グラフはSMARTSelection により作成されたおのおののsiRNAとそのプール(グラフ右側)および従来法により作成されたsiRNAとそのプール(グラフ左側)を示す。ターゲット遺伝子の発現をルシフェラーゼアッセイによって検出している。横軸はおのおののsiRNAおよびそのプール(P)、縦軸はルシフェラーゼ活性を相対値で表示した。従来法の4種類のsiRNAをPoolとして使うと、遺伝子発現の抑制が最も効率のよいsiRNAを1種類使った場合よりもノックダウン効果が低下してしまうことがわかる。それに対し、SMARTSelection により作成されたsiRNAのPoolでは、ノックダウン効率の上昇が見られる。(C=コントロール。non-targeting siRNA)

Poolによって、遺伝子変異や未知SNPによるノックダウン効果の減少を可能な限り回避できる

PoolされたsiRNAを用いる重要な理由のひとつに、遺伝子の変異や未知のSNPのような既知配列とわずかに異なる配列を持つターゲット遺伝子に対するノックダウン効果の減少を回避できることが挙げられます。siRNAがRISC複合体を形成し、mRNAの配列を認識する際には、配列特異性が要求されます。特に1種類のsiRNAでターゲット遺伝子のノックダウンを行おうとした場合、そのsiRNAが遺伝子の変異部位や未知のSNP部位に設計されてしまうと、ノックダウン効率は大きく低下します。同一ターゲットに対して4種類=4箇所に対するsiRNAをもつPoolでは、1種類のsiRNAにノックダウンの減少が起こったとしても、ターゲット遺伝子に対するノックダウン効率の低下は最小限となります。

オフターゲット効果はsiRNAの濃度依存的に増加する

細胞内に導入された二本鎖のsiRNAはセンス鎖を持つため、ターゲット遺伝子以外の類似した配列をもつ他の遺伝子の発現を抑制してしまう(オフターゲット効果)可能性があります。それゆえに、siRNAのPoolでは、複数のオフターゲットをもたらす配列が含まれていることになり、これがオフターゲット効果の影響を受ける遺伝子の数を増加させていることが予想されます。しかしながら、SMARTSelectionによって作成されたsiRNAのPool を用いて細胞をトランスフェクションし、遺伝子発現変化をマイクロアレイで解析すると、予想に反しPool化はオフターゲット遺伝子の数を増やしませんでした。またいくつかの場合はむしろ減少させることがわかりました。(図3) オフターゲット効果はsiRNAの濃度依存的に増加することが知られています。高濃度のsiRNAは、オフターゲット効果に影響する遺伝子数を増加させます。SMARTSelectionによって設計されたsiRNAのPoolを用いてトランスフェクションされた細胞内では、おのおののsiRNAの濃度は、導入されたsiRNAのトータル濃度の数分の一になっています。二本鎖のsiRNAのアンチセンス鎖は、PoolにあるおのおののsiRNAが同一のターゲット遺伝子を認識するため、ターゲット遺伝子のノックダウンに十分な濃度を保ちます。一方センス鎖は、PoolにあるおのおののsiRNAが別々の遺伝子に対してオフターゲット効果をもたらすため、これら遺伝子に対してのsiRNAの濃度は抑えられます。すなわち、SMARTSelectionにて設計されたsiRNAのPoolを用いることで、ターゲット遺伝子の確実なノックダウンを可能にすると同時に、オフターゲット効果は上昇しないということになります。

Poolingとオフターゲット効果

図3 Poolingとオフターゲット効果
グラフの縦軸はオフターゲット効果によって発現量が2倍以上増加(左図)および2倍以上減少(右図)する変化が見られた遺伝子数を示す。実験には cyclophilin Bを同一ターゲットとした4種類のsiRNA (Cyclo 1-4)およびそのPoolを用いた。4種類のsiRNAをPoolとして使うと、1種類のsiRNAを個別に使った場合のオフターゲット遺伝子の平均よりも、オフターゲット効果が見られた遺伝子数が減少していることがわかる。

最後に

SMARTSelectionにて設計されたsiRNAのPool化技術、SMART Pool テクノロジーは、ノックダウン効果を高く保持したまま、オフターゲット効果を抑え、かつ遺伝子変異や未知SNPによるノックダウン効果の減少を可能な限り回避できる技術です。この技術はSMARTSelection技術とともに、Thermo Scientific Dharmacon デザイン済siRNAに使われています。Webサイトから、NCBI RefSeq DBに登録のあるヒト、マウス、ラットの各遺伝子に対するThermo Scientific Dharmacon SMART Poolデザイン済siRNAを簡単に検索購入することができ、ユーザーの方々にとっても大変貴重なリソースを提供しています。

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