Dharmacon テクノロジー
(第3回 ON-TARGET Plus 修飾)
サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、 お客様のニーズに応えるThermo Scientific Dharmacon製品を開発しています。 バイオサイエンスメールでは9回のシリーズで、RNAi実験で最も注目される 製品機能の「ノックダウン効果」「オフターゲット効果」「長期サイレンシング効果」を支える Dharmaconテクノロジーをご紹介しています。第3回では、「オフターゲット効果」が引き起こされる分子メカニズムの解説と、それを抑制するための「ON-TARGET Plus 修飾」についてご紹介します。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 大島)
オフターゲット効果のメカニズム
RISCがsiRNAにエントリーする方向によって、On-Target/Off-Target効果が生じる
siRNAはそのセンス鎖やアンチセンス鎖との相同性が100%に満たない遺伝子をサイレンシングすることがあります。この現象はオフターゲット効果(Off-Target効果)と呼ばれています。
オフターゲット効果のメカニズムは非常に複雑で、さまざまな要因が関係すると考えられていますが、その一因と想定されているRISC(RNA induced silencing complex)とsiRNAとの相互作用のメカニズムを図1に示しました。
複数のタンパク質から構成されるRISCがsiRNAの末端から導入され、siRNAの2本鎖が巻き戻されRISCに取り込まれ、RISC-siRNA複合体が形成されます。この取り込まれたsiRNA配列と相補的な配列を持つmRNAがRISC複合体と結合することで、RISCのリボヌクレアーゼ活性によりmRNAが分解され、その結果、ターゲット遺伝子のサイレンシング(ノックダウン効果)が起こります。siRNAはシンメトリカルになっているため、RISCがsiRNAにエントリーする方向は双方向となります。その結果、エントリーする方向によって、siRNAのアンチセンス鎖がRISCに取り込まれるか、センス鎖が取り込まれるかが決まります。アンチセンス鎖(ターゲットのmRNAと相補的な配列)がRISCに取り込まれれば、ターゲット遺伝子のサイレンシングが起こりますが、センス鎖が取り込まれれば、ターゲット遺伝子以外の遺伝子のmRNAに作用し、オフターゲット効果を引き起こします(図1A)。

図1 siRNAとRISCの基本メカニズム
(A)RISCがsiRNAのどちらの鎖を取り込むかによって、その効果は変わります。アンチセンス鎖(青色)がRISCに取り込まれた場合、ターゲットのmRNAを認識しますが(ON-Target)、センス鎖(赤色)が取り込まれた場合、オフターゲット効果をもたらします。鎖の取り込まれやすさは、siRNAの熱力学的安定性に依存します。
(B) Thermo Scientific Dharmaconの ON-TARGET修飾が施されたsiRNAは、RISCへのセンス鎖の導入が妨げられ、その結果、高い特異性が得られると同時に、オフターゲット効果が低減されます。
従来法によりデザインされたsiRNAのオフターゲット効果排除とその限界
いくつかの研究チームがオフターゲット効果のメカニズムを研究しています。Jacksonらの研究チームは、従来法によりデザインされたsiRNAを用いて、連続したわずか11塩基の相補的な配列によりオフターゲット効果が引き起こされることを見出しました。この研究に端を発し、その後の研究から、相補的な配列領域の位置と分布の重要性が明らかにされ、特にアンチセンス鎖の5'末端領域がオフターゲット効果に強く関与することが指摘されました。その後、Semizarovらは従来法の配列デザイン法とバイオインフォマティクス手法とを組み合わせ、オフターゲット効果を少なくすることに成功しました。
これらの研究により、siRNAの特異性やノックダウン効果には、熟考されたバイオインフォマティクス手法が重要であること、また、従来法を用いた配列デザインでは、オフターゲット効果の排除に限界があることが明らかになりました。
現在一般的に利用されているsiRNAデザインツールは、最適なsiRNA配列をデザインすると同時に、オフターゲット効果を最小限に抑える配列を選択するために使われています。最も一般的な配列選択法は、候補siRNAの配列を遺伝子データベースと比較することで、候補siRNAの中からターゲット遺伝子の唯一の相同配列を選択する方法です。この場合、アライメントサーチツールであるBLASTnが多く使われています。BLASTnは配列を単に比較するためには十分な手法ですが、そのプログラムは比較的長い配列同士を比較するために組まれており、siRNAのように短い配列のミスマッチを検索するには限界があります。siRNAのように短い配列のアライメントに向いているアルゴリズムの例として、Smith-Waterman法(S-W)があります。この手法は、局所的な塩基配列のアライメントを見るとともに、siRNAとターゲット遺伝子のmRNAとの熱力学的な安定性も同定することが出来ます。このS-Wを利用することで、非常に機能性の高いsiRNA配列を選択することができますが、BLASTnなどの検索に比べ、コンピューターでの計算時間が多く必要とします。そのため、多くのフリーのsiRNAデザインツールはBLASTnを採用しているのに対し、市販のデザインツールはBLAST以外にも、S-W法やその他の解析手法を組み合わせた配列比較の方法を採用しています。
RISCへの取り込みを抑制させた化学修飾siRNA
上述のように配列デザインツールによって、siRNAのオフターゲット効果を抑えることができますが、このようなバイオインフォマティックスを用いた配列デザインのみでは、オフターゲット効果を完全に排除することはできません。サーモフィッシャーサイエンティフィックは、siRNAのセンス鎖がRISCへ取り込まれることを抑制する化学修飾をsiRNAのセンス鎖側に施す「ON-TARGET 修飾」を開発しました。ON-TARGET 修飾を施されたsiRNAのセンス鎖は、RISCへの取り込みが抑制され、結果としてオフターゲット効果が抑制されます(図1B)。また、センス鎖へのON-TARGET修飾の導入により、ノックダウン効果は非修飾のsiRNAと同等以上になります(図2)。一方、アンチセンス鎖にON-TARGET修飾を施すとsiRNAのノックダウン効果が著しく下がります。これはアンチセンス鎖がRISCに取り込まれないためと考えられます。

図2 ヒトCyclophilin Bをターゲット遺伝子とし、センス鎖、アンチセンス鎖ともに無修飾(S-AS)、センス鎖のみにON-TARGET修飾されたsiRNA(S*-AS)、およびアンチセンス鎖のみにON-TARGET修飾されたsiRNA(S-AS*)、をHEK293細胞にそれぞれトランスフェクションした際のCyclophilin B遺伝子発現量を相対値で縦軸に示しました。また、センス鎖へのON-TARGET修飾により、ノックダウン効果は非修飾のsiRNAのそれと同等かむしろ高まります。
センス鎖・アンチセンス鎖両鎖に修飾をする独自技術「ON-TARGET plus修飾」
サーモフィッシャーサイエンティフィックは、センス鎖・アンチセンス鎖両鎖に修飾をする独自技術「ON-TARGET plus修飾」を開発しました。このON-TARGET plus修飾では、siRNAのセンス鎖にはRISCへの取り込みを抑制する修飾を施すことで、センス鎖に起因するオフターゲット効果を抑制すると同時に、アンチセンス鎖にmRNAとの配列認識および対合率を向上させる修飾を施すことで、ターゲット遺伝子に対する特異性を高めます。
最後に
今回ご紹介した「ON-TARGET plus修飾」は、siRNA実験の重要な問題点であるオフターゲット効果を抑え、同時にターゲット遺伝子に対する高い特異性を実現するための技術です。このON-TARGET plus修飾は、これまでのバイオサイエンスメールでご紹介した「SMARTSelection」(VOL.1)および「SMART Pool」(VOL.2)テクノロジーとともに、ThermoScientific Dharmacon ON-TARGET plus siRNAに使われています。Webサイトから、NCBI RefSeq DBに登録のあるヒト、マウス、ラットの各遺伝子に対するThermoScientific Dharmacon ON-TARGET plus siRNAを簡単に検索購入することができます。






