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第4回 トランスフェクション試薬を用いたsiRNA実験

siRNAを細胞に導入するトランスフェクションは、siRNA実験において最も重要なステップです。トランスフェクションにはさまざまな方法がありますが、リピッド系トランスフェクション試薬を用いる方法が広く一般的に使われています。トランスフェクション試薬を用いる場合は、siRNAの導入効率、細胞生存率などを考慮して、細胞株に合わせたトランスフェクション実験条件の検討(至適化)が必要になります。ここでは条件検討を効果的に進める実験デザイン例として、サーモフィッシャーサイエンティフィックのトランスフェクション試薬(DharmaFECT)を用いたsiRNA実験の進め方について取り上げることにします。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 牛山)

DharmaFECTを用いたトランスフェクション

siRNA実験の実験系を次のように設定することにします。

siRNA実験系の例
細胞株 HEK293
トランスフェクション試薬 DharmaFECT 1
プレート 96ウェルフォーマット

DharmaFECTには4種類(DharmaFECT 1から4まで)がありますが、製品プロトコルによるとHEK293細胞に対してはDharmaFECT 1が適当との情報があります。また、推奨トランスフェクション条件として下記の情報があります。

DharmaFECT 1を用いるHEK293へのトランスフェクション推奨条件
細胞株 25000 個 / ウェル
DharmaFECT液量 0.4 μL / ウェル

これはHEK293についてsiRNAトランスフェクション効率が最も高かった組合せになります。実際の条件は使用する細胞の状態や実験環境等で多少異なる可能性があるため、上記条件を目安として周辺の条件を検討します。siRNAの濃度については確実なノックダウンを検出するためはじめは100 nMに固定しておき、細胞密度とトランスフェクション試薬の量について検討します。たとえばトランスフェクション条件の検討パラメーターは下記のようになります。ここで細胞密度とDharmaFECT液量は、96ウェルフォーマットのプレートでのウェルあたりの値です。異なるフォーマットのプレートを用いる場合は適時調節します。

トランスフェクション条件の検討パラメーター(例:HEK293の場合)
細胞株 15000, 20000, 25000, 30000 個 / ウェル
DharmaFECT液量 0.2, 0.4, 0.6, 0.8 μL / ウェル
siRNA濃度 100 nM

サンプルとしては、次の4種類を用意します。この4種類はトランスフェクション条件検討に限らず、siRNA実験においては常にセットとして実験に用います。

トランスフェクション条件の検討で用いるサンプル
ポジティブコントロールsiRNA GAPDH、Cyclophilin B、Lamin A/Cなど
ネガティブコントロールsiRNA Non-Targeting siRNA
コントロール1 培地のみ
コントロール2 培地とトランスフェクション試薬のみ

siRNAとしては確実なノックダウンが確認されているポジティブコントロールsiRNAを用います。サーモフィッシャーサイエンティフィックではハウスキーピング遺伝子GAPDH、Cyclophilin B、Lamin A/Cに対するsiRNAをポジティブコントロールsiRNAとして提供しています。また、蛍光色素がラベルされたsiGLO Transfection Indicatorは、蛍光顕微鏡によりトランスフェクションが確認できるので便利です。
ネガティブコントロールsiRNAを用いたサンプルは、ノックダウン効率を評価するときの基準となります。その他のコントロールとして、siRNAを含まない培地のみ、培地とトランスフェクション試薬のみのサンプルを使います。これらは培地やトランスフェクション試薬による影響を確認するために有用です。この段階ではターゲット遺伝子に対するsiRNAはまだ使いません。トランスフェクション条件の検討はポジティブコントロールsiRNAを基準として進めます。ターゲットのsiRNAはトランスフェクション条件がある程度決まってから使います。

トランスフェクション条件検討での検出項目

トランスフェクション条件検討では、トランスフェクション効率(ノックダウン効率)と細胞生存率について検出・確認を行います。つまり、トランスフェクション効率と細胞生存率がなるべく高くなるような細胞密度とDharmaFECT試薬量の条件について、検討を行います。

検出(観察)項目
トランスフェクション効率(ノックダウン効率)
細胞の生存率

トランスフェクション効率については、ポジティブコントロールsiRNAのノックダウン効率を近似的に用います。ポジティブコントロールsiRNAは高いノックダウン効率をもつため、そのノックダウン効率をトランスフェクション効率として評価することができます。トランスフェクション効率が高いほど実験条件としては至適化されていることになります。ポジティブコントロールsiRNAのノックダウン効率は、細胞株によりますが多くの場合70 - 80 %以上(細胞株によっては90%以上)が目安となります。
ノックダウン効率は、トランスフェクション後24時間、48時間のmRNAレベルを定量PCRにより検出します。タンパク質レベルの発現抑制を確認する場合は、トランスフェクション後72時間、96時間について検出します。ただし、RNAiはmRNAレベルの現象のため、mRNAレベルでノックダウンが確認されたとしても、タンパク質レベルで同様にノックダウンがみられるとは限らないので注意が必要です(逆の言い方をすると、タンパク質レベルでのノックダウン効率が十分でない場合でも、mRNAレベルでは十分なノックダウンが起きていることがあるということです)。トランスフェクションの条件検討では、実験をより確実に進めるために、ノックダウン効率はmRNAレベルで確認するようにします。なお、定量PCRで用いるプライマーは、siRNAのターゲット配列領域を挟むように選ぶのが理想的です。
細胞生存率については高いほど実験条件として至適化されていることになります。実験結果を正しく評価するために、少なくとも80%以上であることが望まれます。もし細胞毒性が強い場合は、トランスフェクション用の培地から通常の培地に戻すことを検討します。この場合はトランスフェクション24時間後に交換するようにします。

ターゲットsiRNAを用いた検討

トランスフェクション条件がおおよそ至適化された段階で、ターゲットのsiRNAを用いた検討を進めます。ターゲットのsiRNAの濃度ははじめ100 nMとして、至適トランスフェクション条件でのノックダウン効率を評価します。ノックダウン効率の評価は、上でも記したように定量PCRを用いてmRNAレベルで行います。ターゲットのsiRNAのノックダウン効率が十分であることを確認した後で、siRNAの濃度を低くする検討をします。siRNAの濃度を低くすることで、ターゲット以外の遺伝子がノックダウンされてしまうオフターゲット効果の影響を低減できます。ターゲットのsiRNAの濃度は、ノックダウン効率が十分な範囲と用いるアッセイ条件等を考慮した上でなるべく低い濃度条件に設定します。

トランスフェクション試薬の選択について(補足)

上記では細胞株としてHEK293、トランスフェクション試薬としてDharmaFECT 1を用いる場合を取り上げました。細胞株に対して適切なトランスフェクション試薬を選ぶことはとても重要です。DharmaFECTは4種類(DharmaFECT 1から4)あるため、細胞株にあわせて適切なトランスフェクション試薬を用いることができます。細胞株とDharmaFECTの組み合わせについては、下記のような情報があります。

情報がない細胞株を使う場合は、同じ細胞株を用いている文献等を調べます。文献検索には HighWirePubMed が便利です。

文献等の情報がない場合は、4種類のDharmaFECTを用いて、最もトランスフェクション効率と細胞生存率が高い条件を検討します。細胞密度とDharmaFECT液量については、次を目安として検討を始めます。

トランスフェクション条件の検討パラメーター(例:情報がない場合)
細胞密度 5000, 10000, 25000 個 / ウェル
DharmaFECT液量 0.05, 0.1, 0.2, 0.4, 0.8, 1.6 μL / ウェル

最後に

トランスフェクションはsiRNA実験において最も重要なステップです。トランスフェクション効率はsiRNA実験の結果に大きく影響します。トランスフェクション条件の検討はステップがいくつかありますが、これまでに記したように条件検討をデザインし、段階的に行うことが効率的に実験を進めるためのキーポイントです。

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