Dharmacon テクノロジー
(第5回 siRNAの化学合成法)

Dharmaconテクノロジーの第5回では、DharmaconのsiRNAやRNAの合成の根幹となる「2'-ACE法による化学合成法」についてご紹介します。 (執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)

RNAの化学合成法の開発:2’-ACE法の利点

DNAの化学合成とくらべてRNAの化学合成では、2’-水酸基に対する保護基の導入と除去のステップについて考慮する必要があります。特に2’-水酸基の保護基の条件として重要な点は、1)鎖伸長反応において5’-水酸基の保護基を除去するときに脱離しないこと、2)最終段階で塩基やリン酸基の保護基を脱保護するときに脱離しないことです。
1980年代、古典的なホスホロアミダイトDNA合成法をもとに、RNAの2’-水酸基を2’-O-t-butyldimethylsilyl (2’-tBDMS) 基で保護する合成法が確立されました。その後、合成効率が2’-tBDMS よりも向上した、2’-O-triisopropylsilyloxymethyl (2’-TOM) 保護基を用いたRNA合成法が開発されました。しかし、2’-tBDMS法および2’-TOM法によるRNA合成には、長さ・純度・合成スケールの点で限界がありました。1990年代後半になると、5’-silyl-2’-acetoxyethoxy (2’-ACE) 保護基を用いた合成法が開発され、それらの限界が越えられました。2’-ACE法では、図1に示したビルディングブロックやホスホロアミダイトを使用することにより、合成効率・純度・合成スケール・適用性の点で従来法に優るRNA合成が可能となりました。

図1 ウリジンホスホロアミダイトの構造

図1 ウリジンホスホロアミダイトの構造
2’-ACE法で使用される保護基のついたリボヌクレオシドホスホロアミダイトの一例として、2’-ACE保護基の付加したウリジンホスホロアミダイトの構造を示しました。

 2’-ACE法によるRNA合成は比較的穏やかな中性条件で行うため、2’-tBDMS法や2’-TOM法を用いたRNA合成法よりも高収率で完全長RNAを合成することができます(表1)。他の合成法とは異なり、2’-ACE法では80塩基あるいはそれ以上の長さの高品質RNAオリゴの合成が可能となり(図2)、多種多様な糖・核酸塩基・ヌクレオチド間結合・化学修飾にも幅広く適用できます。

表1 RNA合成法の比較
それぞれの合成法での平均カップリング効率と、21、50mer完全長RNAの収率を示しました。2’-ACE法の場合、21merの完全長RNAオリゴの収率が90%を超えることが頻繁にあります。
  2'-ACE法 2'-TOM法 2'-tBDMS法
平均カップリング効率 >99% >98% 95%
21mer完全長RNAの収率 81% 65% 34%
50mer完全長RNAの収率 61% 36% 8%

図2 2’-ACE法で合成された98塩基長の未精製オリゴの分析

図2 2’-ACE法で合成された98塩基長の未精製オリゴの分析
(A)陰イオン交換HPLCによる分析結果
(B)MALDI-TOF MSによる分析結果
いすれの分析結果からも、高純度のRNAが合成されていることが分かります。

 2’-ACE法には他にも利点があります。それはヘアピンのような高次構造を含むRNAの合成が可能であるということです。通常ヘアピン構造はRNAの合成と精製の妨げになりますが、2’-ACE法では合成と精製の過程を通して、2’-ACE保護基がRNAに結合しているため高次構造の形成が緩和され、同時にRNaseによるRNAの分解を防ぐことができます。2’-ACE保護基が結合したRNAは水溶性であり、長期間の保存が可能です。2’-ACE保護基は、siRNAの使用前に弱酸性条件下で容易に除去することができます(図3)。

弱酸性条件下による2'-ACE保護基の除去

図3 弱酸性条件下による2'-ACE保護基の除去
親水性の2’-ACE保護基が結合したRNAは、その配列や長さに関わらず水溶性となります。2’-ACE保護基は30分以内に容易にRNAから除去することができます。

このように保護基が結合した状態でsiRNAを提供できるのは、2’-ACE保護基のユニークな特長です。RNAi実験に用いられるsiRNAは、ほとんどの場合2’水酸基が脱保護された状態で提供されますが、サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、2’-ACE保護基を結合した状態のままでもsiRNAを提供することができます。使用前に2’水酸基を脱保護することにより、精製することなくそのままsiRNAをin vitroあるいはin vivo実験に使用することが可能です。さらに2’-ACE法は、RNAの大量合成(グラム単位)と、小規模ハイスループット合成の両方に適用できるため、モデル動物へのsiRNA投与実験、あるいはゲノムレベルでのsiRNAスクリーニング実験を計画されている研究者の方にとって、2’-ACE法はたいへん便利なRNA合成法といえます。

化学合成法の強み

化学合成法は、他のsiRNA作成法(in vitro転写、組み換えDicerによる2本鎖RNAのin vitro切断、PCR発現カセット、プラスミドあるいはウイルスベクターからのsiRNAの発現)と比較すると多くの利点があります。化学合成された高純度siRNAは、凍結乾燥状態で提供されるため保存が容易であり、RNaseフリーの適当なバッファーに溶解すれば、すぐに実験に使用することができます。他のsiRNA作成法では必要となる酵素反応などの条件至適化は不要です。また、合成された塩基配列が正確である上に収量が高いことも化学合成法の特長です。2’-tBDMS法や2’-TOM法によるRNA合成法では、不完全長のsiRNAや、二本鎖を形成していないsiRNAを精製により除去する必要がありますが、2’-ACE法ではその必要がありません。さらに2’-ACE法は、さまざまな修飾を施したRNAの合成にも適用可能です(例えば、ON-TARGETplus修飾、siSTABLE修飾など)。

上述のようにsiRNAの化学合成法はハイスループット化に適合しており、その中でも2’-ACE法は、製薬やバイオテクノロジー産業で必要なRNA大量合成にも適用可能です。化学合成されたsiRNAは、標準的な方法(例えば、リピッド系トランスフェクション試薬を用いる方法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法)によって、多くの細胞・組織・モデル動物へと容易に導入することができ、特定の遺伝子の機能解析において最も効果的な実験ツールです。

最後に

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、2’-ACE法による化学合成を基盤として、これまでにバイオサイエンスメールでご紹介してきたさまざまなテクノロジー(SMARTselectionアルゴリズムSMARTpoolON-TARGETplus修飾siSTABLE修飾)を駆使した高品質のsiRNA製品を提供しています。

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