Pierce テクニカルリソース
第1回 化学発光ウエスタンブロッティング

実験サポートをテーマにした記事をお送りさせていただきます。第一回目のテーマは 「化学発光ウエスタンブロッティング」(6ページ)です。

ウエスタンブロッティングは特定のタンパク質を同定するために広く用いられる手法であり、電気泳動で分離されたサンプルをメンブレンに転写して抗原特異的に検出する手法です。 化学発光ウエスタンブロッティングの基本原理と各要因に関してご紹介していきます。Thermo Scientific Pierce製品を最適な状態で使用していただくための実験で役立つヒントや ノウハウ、一般プロトコールなどを含むテクニカル・ガイドになりますが、メンブレンを用いる一般的な増強化学発光アッセイにも適用できます。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 萬代)

はじめに

ウエスタンブロッティングは特定のタンパク質を同定するために広く用いられる手法であり、ニトロセルースやPVDFメンブレンに固定化されたタンパク質試料を間接的に検出します。定法ではタンパク質試料はまずSDS-PAGEにより分離された後、電気的にメンブレンに転写されます。ブロッキングステップに続いて、メンブレンは抗原に対する一次抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)によってプローブされます。洗浄ステップにより未反応の一次抗体を取り除いた後、メンブレンは一次抗体を認識する酵素標識二次抗体と反応させます。標識酵素としてはアルカリフォスファターゼ(AP)または西洋わさびパーオキシダーゼ(HRP)が最も一般的です。さらにメンブレンを洗浄してから酵素に応じた基質と反応させます。このようにウエスタンブロッティングでは酵素の活性を利用したシグナルを得ることで抗原を間接的に検出します。
この「テクニカルリソース 化学発光ウエスタンブロッティング」では、化学発光ウエスタンブロッティングの一般原理と各要因に関してご紹介していきます。弊社Thermo Scientific Pierce製品を引用していますが、メンブレンを用いる一般的な増強化学発光アッセイにも適用できます。

化学発光ウエスタンブロッティングのタイプと要因

最も一般的なウエスタンブロッティング基質はルミノールベースの化学発光基質です。化学発光はエネルギーを光として放出する化学反応です。西洋わさびパーオキシダーゼ(HRP)と過酸化水素の存在下ではルミノールは酸化され励起状態の反応生成物を形成します。この反応生成物が励起状態から基底状態に戻る際のエネルギーが光として放出されます。この放出光は酵素基質反応の間だけ生じるため、酵素の近傍に存在する基質が消費されれば放出光は途絶えることになります。対称的にDABなどの発色基質では酵素基質反応が停止した後もメンブレン上に残る沈降物を生じます。

A. シグナルの検出

ウエスタンブロッティングが一般的なアプリケーションになって久しいですが、S/N比の高い最適なバンドを得るのは簡単ではありません。ウエスタンブロッティングは手技を要する一連の連結したステップから構成されるため、最終的なシグナル獲得には途中のさまざまな要素が関連するからです。多くの変動的な要素が関与するウエスタンブロッティングでの問題を解決することは、干し草の山から針を探し出すことにも似ています(表1)。既存のプロトコールに沿っていても特定のサンプルの検出が難しいことはよくあります。
たとえば、nativeな高次構造を保持したタンパク質を認識する一次抗体を用いた場合に、メンブレン上に固定されて変性した抗原を認識しない場合がありますが、電気泳動を非変性条件下で行った場合、メンブレンに転写後の抗原タンパク質はネイティブな構造を保持している可能性があり検出できる可能性があります。ただし、バンドとして検出できたとしても、目的タンパク質の分子量の特定は困難になります。
さらに非常に高分子量のタンパク質や疎水的なタンパク質ではメンブレンへの効率的な転写が難しいことがあります。そのためより確実に目的タンパク質を検出できるように1979年にはじめて紹介されたTowbinのプロトコールはこれまで何度も改変されてきました。あえてメンブレンへの転写を避けてゲル内で検出することもあります。

表1 ウエスタンブロッティングに影響する要因
要因 変動特性
抗原(目的タンパク質) 立体構造、安定性、エピトープ
ポリアクリルアミドゲル ゲル製造元, アクリルアミド濃度、保存期間、製造ロット
メンブレン メンブレン製造元、タイプ、製造ロット
一次抗体 特異性、力価、親和性、反応時間および反応温度
HRP標識二次抗体 酵素標識レベルと酵素活性、ホスト動物種、濃度
ブロッキングバッファー タイプ、濃度、交叉反応性
洗浄 バッファー、使用量、洗浄時間、洗浄回数
基質 感度、製造ロット、保存期間
検出法 保存期間、製造元

B. シグナル強度とシグナル継続時間

ウエスタンブロッティングの各条件が使用する基質に至適化されていれば、化学発光シグナルは少なくとも6-24時間(Thermo Scientific Pierce製品のSuperSignalシリーズの場合)継続します。シグナル強度と継続時間は検出に用いられる特定の化学発光基質と検出系に存在する酵素-基質比に依存します。ブロット上の化学発光基質は相対的に一定ですが、存在する酵素量はメンブレン上の抗原量と添加された一次抗体量と酵素標識二次抗体に依存(表1)します。酵素標識物が検出系に過剰に存在するとバックグラウンドの上昇・シグナル継続時間の短縮・感度の低下につながります。これは最も頻度の高い不具合の原因です。ゆっくりと強度減衰するエミッションカーブ(図1)は理想的であり、これは検出系が至適化され信頼できる結果が得られていることを意味します。急速に減衰するシグナルは結果の変動性や感度の低下の原因となり、シグナルの画像化さえできない場合もあります。長く安定的に継続するシグナルは転写効率や基質の製造ロット間での変動を最少に抑えることもできます。HRPが基質に特有な発光継続時間内その活性を維持できるとしても、ルミノールがHRPを回転させ失活させることが指摘されています。酸化反応の際に生じるフリーラジカル生成物はHRPに結合することがあり、そうなるとHRPはもはや基質と相互作用することができなくなります。検出系に過剰に存在するHRPは過剰なフリーラジカルを生み出し、HRP失活の可能性を高めます。さらにフリーラジカルは抗原にもダメージを与えるため再プローブの際の検出にも影響がでることがあります。

図1 化学発光法において過剰量の酵素を使用した場合に見られる現象

図1 化学発光法において過剰量の酵素を使用した場合に見られる現象
過剰の酵素標識抗体を用いると下記のような現象がみられる場合があります。このような時は抗体濃度(希釈率)の至適化を行います。

C. 直接法と間接法

直接法では標識一次抗体を用います。二次抗体との反応が省かれるため、間接法と比べて短時間で終了します。さらに二次抗体の交叉反応に由来するバックグラウンドノイズの心配もありません。同時に複数の抗原をプローブすることも可能です。ただし一次抗体への標識は抗原認識に不都合な影響を与えることがあり、さらにすべての条件が至適化されていたとしても間接法で得られるようなシグナルの増幅は起こりません。必然的に直接法で得られる検出感度は間接法に比べて低く、抗原が比較的豊富に存在する場合にのみ行われます。直接法の選択肢としては一次抗体のビオチン化があり、間接法でありながら二次抗体を使用せずにシグナルの増幅が可能になります。ビオチン化試薬による標識では一般的に抗体1分子あたり複数のビオチンを修飾するようなプロトコールで行われます。ビオチン1分子に対してHRPが標識されたアビジンやストレプトアビジンまたはThermo Scientific NeutrAvidinが結合することでシグナルの増幅をおこなうことができます。この場合、HRP標識アビジンは二次抗体の代わりに使用され、また使用時のモル濃度は基本的には二次抗体の場合と同じです。

D. ファーウエスタン法

抗原特異抗体の使用が適切でない場合や利用できる抗体が存在しない場合があります。目的タンパク質と作用するタンパク質(結合パートナー)をプローブに利用できれば、ウエスタンブロッティングは可能です。この手法はファーウエスタンブロットと呼ばれタンパク質-タンパク質間の相互作用(PPI; Protein:Protein Interaction)検出に用いられます。相互作用検出には無数の手法があり、さまざまなストラテジーが報告されています。抗体を用いる手法と同様に、標識された結合パートナーが用いられ、標識には35Sによるin-vitroでの反応も利用されます。またはプローブのビオチン化と標識されたアビジンまたはアビジン様タンパク質が使用され、シグナルの増幅が図られることもあります。ただし結合パートナーへの過剰標識によって相互作用を阻害しないように細心の注意をはらう必要があります。GST, HA, c-Myc, FLAGなどのタグと共発現させた組換え型プローブとタグ抗体を用いることもあります。ウエスタン同様にファーウエスタンでもメンブレン上またはゲル内で検出されます。

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