Pierce 知っておきたい基礎技術
(第2回 界面活性剤の特性と種類)
バイオ実験手法が開発された目的や原理を理解することは、研究目的に適した実験手法の選択や期待した実験結果が得られない場合の原因究明に役立ちます。
「Pierce知っておきたい基礎技術」のコーナーでは、はじめて新しい実験に取り組む方ならびに既に実験に取り組まれている方で改めておさらいしたい方を対象としてバイオ実験の基本手法やその原理を紹介していきます。
第2回目のテーマは「界面活性剤の特性と種類」と題して、界面活性剤の概論とタンパク質実験で使用する際に留意すべき点についてご説明いたします。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 土持)
界面活性剤の特性と種類
界面活性剤は脂肪族や芳香族からなる非極性部分(テール)と極性部分(ヘッド)の両方を有する両親媒性の分子です(図1)。界面活性剤はヘッドグループの性質によってイオン性(有する電荷によって陽イオン性または陰イオン性がある)、非イオン性(電荷をもたない)、または両イオン性(正負両方の電荷をもつが分子全体の電荷はゼロ)に大きく分類されます。各界面活性剤の性質は、そのヘッドグループとテールグループの特性(親水疎水性のバランス, 鎖長, かさの高さ)によって決まります。界面活性剤は水溶性の分子であり、非極性のテールグループが疎水相互作用に関与することから生体膜を構成するリン脂質に類似した性質を有しており、水に不溶性の疎水性分子を水溶液中に分散(混和)させることができます。

図1 界面活性剤分子のイメージ図(上図)と両イオン性界面活性剤(CHAPS)の構造式(下図)
界面活性剤は水溶性の分子ですが、水溶液中での濃度が低いときは通常テールグループ(疎水基)を気相側に向けた状態で、その大部分が気液界面に集まります。水溶液中での濃度が高くなると、熱力学的により安定化するために互いに会合し、外側にヘッドグループ(親水基)、内側にテールグループ(疎水基)をもつミセルを形成します(図2)。界面活性剤がこのミセルを形成する最低濃度を臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration: CMC)と呼びます。また界面活性剤がミセルを形成するときの温度を臨界ミセル温度(Critical Micelle Temperature: CMT)と呼びます。界面活性剤は(CMT以上の温度で)CMCより濃度が高くなるとミセルを形成した透明な液体となります。CMTより低い温度では不溶性の結晶状態(またはモノマーとの共存状態)で存在します。ただしCMTより高い温度でも曇り点(Cloud Point)と呼ばれる温度を超えると不透明な濁った溶液となり、遠心すると界面活性剤を含む相と水の相とに分離(分配)します。Thermo Scientific PierceのMem-PER Eukaryotic Membrane Protein Extraction Kit(製品コード89826)では、膜タンパク質を抽出するためにTriton X-114のこの分配原理を利用しています。

図2 水溶液中の界面活性剤ミセルのイメージ図
界面活性剤の性質は実験で使用する際の濃度、反応温度、バッファーpH、イオン強度などによって異なります。非イオン性界面活性剤のCMCは温度上昇とともに減少し、イオン性の界面活性剤は対イオン(イオン性界面活性剤と反対の電荷をもつ低分子イオン)を添加するとヘッドグループ間の静電反発力が減少しCMCが減少します。また、ウレアを添加すると水素結合している水分子の構造がくずれてCMCが減少します。一般的にイオン強度が高い溶液中では低い溶液に比べてミセルサイズが大きくなります。
界面活性剤のうちSDS (Sodium Dodecyl Sulfate) のようなアニオン性界面活性剤やCTAB (cetyl trimethyl ammonium bromide) のようなカチオン性界面活性剤は変性作用をもち、タンパク質・タンパク質間の相互作用を破壊してタンパク質を変性させます。一方、TritonX-100のような非イオン性界面活性剤やCHAPSのような両イオン性界面活性剤、コール酸ナトリウムやデオキシコール酸ナトリウムなどの胆汁酸塩(アニオン性界面活性剤)は非変性的な界面活性剤として知られています。特に非イオン性または両イオン性の界面活性剤は一般的にイオン性の界面活性剤よりもマイルドで、タンパク質の変性が少ないことが知られています。






