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Thermo Scientific PCR関連製品
(Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いたマウス組織からのダイレクトPCR)
サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific製品を開発しています。Phire Animal Tissue Direct PCR Kit は動物組織からゲノムDNAを精製せずに、直接PCR増幅するためのキットです。今号では、トランスジェニックマウスの耳から、本キットを用いてダイレクトPCRを行いジェノタイピングする方法をご紹介します。市販のDNA抽出・精製キットとホットスタートTaq DNAポリメラーゼを組み合わせた従来法と比べて、本キットは確実に結果が得られるだけでなく、収量においても優れた結果を得ることができました。また、PikoThermal Cyclerおよび専用のUltra-Thin Walled (UTW) reaction vesselsと一緒に用いることで組織から40分以内にPCR産物を得ることができました。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)
はじめに
遺伝子改変マウスは、遺伝子の機能解析の材料として広く利用されていますが、改変マウスを作製する過程で、目的遺伝子の導入確認には通常PCRが用いられています。従来法では、マウスの耳・尾・爪先からゲノムDNAを抽出・精製してPCRを行なっていましたが(1,2)、Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いることでDNA抽出・精製の操作を省くことができます。本稿ではキットを用いた2つのジェノタイピングの実験例をご紹介します。1つは、2組の異なるプライマー対を1本の反応系で同時に行なうマルチプレックスPCR、もう1つは、1組のプライマー対を用いて長さの異なる2つのターゲット配列をPCR増幅する方法です。また最後に、サンプルの保存安定性を検討した結果もご紹介します。
材料と方法
- Phire Animal Tissue Direct PCR Kit
- 24-well Piko Thermal cycler
- Piko PCR Plate
- トランスジェニックマウスの凍結保存した耳
Direct protocol:サンプリング用ツールHarris Uni-Coreを用いてマウスの耳組織から0.5 mmディスクを採取し、50 μLのPCR溶液に直接入れました。PCR産物をアガロースゲル電気泳動する場合は、ゲルローディング色素にDNARelease Additiveを加えました。
Dilution protocol:マウスの耳からパンチアウトした2 mmディスクを、0.5 μLのDNARelease Additiveを加えた 20 μLの希釈バッファーに入れました。このサンプル溶液を室温で2分インキュベートした後、98℃で2分さらにインキュベートしました。サンプル溶液を遠心によりスピンダウンし、1 μLの上清を用いてPCRを行いました(20 μL反応系)。上清の一部を新しいチューブに入れ、使用時まで-20℃にて保存しました。
安定性試験:Dilution protocolにしたがってマウス耳からサンプル溶液の上清を調製しました。この上清に対して凍結融解の操作を20回繰り返すか、上清を-20℃で1年保存しました。
結果と考察
Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを2つのジェノタイピング方法により評価しました。2組の異なるプライマー対を用いたマルチプレックスPCRでは、図1に示すとおりに明瞭な結果を得ることができました。1組のプライマー対を用いて長さの異なる2つのターゲット配列を直接PCR増幅する方法によっても、予想サイズのPCR産物を得ることができました(図2)。ホモマウスと比べて、ヘテロマウスのサンプルの1500 bpのPCR産物が相対的に少ないのは、同一のプライマー対に対して2つの異なるターゲット配列において競合するためです。

図1 2組の異なるプライマー対を用いた直接PCRによるトランスジェニックマウスのジェノタイピング
11個体のトランスジェニックマウスの耳から0.5 mmサイズの組織片を採取し、50 μLのPCR溶液に直接入れました。PCR産物の大きさ:490 bp (トランスジェニック)、250 bp (野生型)。

図2 1組のプライマー対を用いた直接PCRによるトランスジェニックマウスのジェノタイピング
9個体のトランスジェニックマウスの耳からパンチアウトした組織片を、DNARelease Additiveを加えた 20 μLの希釈バッファーに入れました。このサンプル溶液を室温、続いて98℃でインキュベートしたのち、1 μLの上清を用いてPCRを行いました。PCR産物の大きさ:1,500 bp (トランスジェニック)、200 bp (野生型)。
次に、Phire Animal Tissue Direct PCR Kit、および動物組織用の市販のDNA抽出・精製キットとホットスタートTaq DNAポリメラーゼを組み合わせた方法を用いて、4つのターゲット配列をマウスの耳から直接PCRしました。Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いた場合、4つのすべてのPCR産物が効率よく増幅しました。一方、市販のDNA抽出キットとホットスタートTaq DNAポリメラーゼを組み合わせた方法では、ターゲット配列によって結果が異なり、もっとも長いターゲット配列を増幅することはできませんでした(図3)。最後に、Dilution protocolにしたがってマウスの耳から調製したサンプル溶液の上清の保存安定性を調べました。上清は-20℃で少なくとも1年保存可能であることが分かりました。また、上清の凍結融解はPCR増幅の結果に影響を与えないことも分かりました(図4)。

図3 Phire Animal Tissue Direct PCR Kitと従来法によるPCRの比較検討
Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いたDilution protocolにより、0.5 - 1.5 kbのターゲット配列をマウスの耳組織から直接PCR増幅しました。従来法では、市販のDNA抽出キットにより調製したゲノムDNAをテンプレートとし、ホットスタートTaq DNAポリメラーゼを用いて同じ4つのターゲット配列のPCR増幅を行いました。Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いた場合にのみ、4つすべてのターゲット配列が増幅できました。

図4 マウス耳組織サンプルの安定性比較実験
Dilution protocolにしたがってマウスの耳からサンプル溶液の上清を調製し、いくつかの方法によってサンプルの安定性を比較検討しました。レーン1:凍結融解、レーン2:上清を-20℃で1年保存したサンプル、レーン3:調製直後のサンプル。PCR産物の大きさは900 bp、1,500 bp、3,200 bpです。
以上の結果から、Phire Animal Tissue Direct PCR Kitを用いることで、トランスジェニックマウスのジェノタイピングが短時間で解析できることが分かりました。キットに含まれるPhire Hot Start II DNA PolymeraseはPCR阻害物質に対して耐性であるため、本キットを用いれば時間や労力のかかるDNA抽出・精製の操作は不要です。ただし、実験材料やプライマーによってはPCR増幅の収量が低い場合があるため、ダイレクトPCRの実験系を初めて行なう場合には、まずは反応条件の至適化が容易なDilution protocolによって実験することをおすすめします。
参考文献
- Wang, Z. and Storm, D.R. 2006. Extraction of DNA from mouse tails. BioTechniques 41:410-412.
- Malumbres, M. et al. 1997. Isolation of High Molecular Weight DNA for Reliable Genotyping of Mice. BioTechniques 22:1114-1119.



