Dharmacon テクノロジー
(Thermo Scientific Solaris定量PCR試薬を用いたAKTプロテインキナーゼファミリー遺伝子の発現解析: FOXO1制御機構のRNAi技術を用いた研究 (その2))
サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific Dharmacon製品を開発しています。
前回に続いて、AKTファミリータンパク質によるFOXO1の制御機構を解析するためにsiRNAを用いてAKTファミリー各遺伝子の発現をノックダウンしたアプリケーションをご紹介します。今回は後編として、定量PCR試薬「Solaris」を用いて各AKTファミリー遺伝子の特異的なノックダウン効率を評価した結果について触れます。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)
siRNAによるAKTファミリー遺伝子ノックダウンの特異性についてSolarisを用いた検証実験
AKTファミリー遺伝子(AKT1、AKT2、AKT3)をターゲットとするON-TARGETplus SMARTpool siRNAを導入した細胞におけるAKT mRNAの発現レベルを、Solaris qPCR Gene Expression Assayを用いて測定しました。各AKT mRNAをターゲットとするようにデザインされたsiRNAの細胞導入によって、各遺伝子が特異的にノックダウンされることが確認されました(図1、赤色の棒グラフ)。一方、コントロールではノックダウンは確認されませんでした(図1、青色の棒グラフ)。AKT1 mRNAをターゲットとするsiRNAの導入によって、AKT1 mRNAの発現レベルは90% 以上低下したのに対し、AKT2、AKT3 mRNAの発現レベルに変化はありませんでした(図1A)。同様に、AKT2 mRNAをターゲットとするsiRNAの導入によって、AKT2 mRNAの発現レベルは約95% 低下したのに対し、AKT1、AKT3 mRNAの発現レベルに変化はありませんでした(図1B)。また、AKT3 mRNAをターゲットとするsiRNAの導入によって、AKT3 mRNAの発現レベルは90% 低下したのに対し、AKT1、AKT2 mRNAの発現レベルに変化はありませんでした(図1B)。さらに、siRNAを組み合わせて用いた場合のノックダウン特異性について検証しました。AKT1とAKT2 mRNAをそれぞれターゲットとするsiRNA両方を細胞へ導入した場合には、AKT1、AKT2 mRNAの発現レベルが共に低下したのに対して、AKT3 mRNAの発現レベルに変化はありませんでした。さらに、AKT1、AKT2、AKT3 mRNAをそれぞれターゲットとするsiRNAの全てを細胞へ導入した場合には、全てのAKT mRNAの発現レベルが低下しました。AKT1、AKT2、AKT3、GAPDH 遺伝子検出用のSolaris qPCR Gene Expression Assayを用いて得られたPCR増幅曲線を図1Dに示しました。使用したsiRNAがターゲットとするAKT遺伝子のPCR増幅曲線のみシフトし、Cq値が3以上増加しました。一方、対照として用いたGAPDH遺伝子の発現レベルは全ての処理細胞で同一でした(Cq値が同じ)。以上の実験結果から、ON-TARGETplus SMARTpool siRNAによって各AKT遺伝子の特異的なノックダウンが可能であること、また、各AKT遺伝子のノックダウン効率をSolarisによって測定できることが確認されました。

図1 siRNAによるAKT遺伝子ノックダウンのSolaris定量PCR試薬を用いた解析
ON-TARGETplus SMARTpool siRNA投与後の各AKT遺伝子の相対発現レベルを解析しました(A-C)。定量PCRは、AKT1、AKT2、AKT3、GAPDH 遺伝子検出用のSolaris qPCR Gene Expression Assayを用いてRoche LightCycler480 (384ウェル) により行いました。AKT1 (A)、AKT2 (B)、AKT3 (C) 各遺伝子のノックダウン効率をΔΔCq法によって計算しました(GAPDH遺伝子およびNon-Targeting Control siRNA処理細胞に対して標準化)。AKT1、AKT2、AKT3、GAPDH 遺伝子検出用のSolaris qPCR Gene Expression Assayを用いて得られたPCR増幅曲線(対数表示)を示しました(D)。
AKTによるFOXO1細胞内局在制御のRNAi技術を用いた解析
AKTファミリータンパク質がFOXO1の制御にどのような役割を担っているのかを効率よく解析するために、U2OS FKHR Redistribution cell lineにおける各AKT遺伝子の発現をsiRNAによってノックダウンする方法を用いました。U2OS FKHR Redistribution cell lineは、ヒトFKHR/FOXO1をenhanced green fluorescent protein (EGFP) のN末端に融合した形で安定的に発現するため、FOXO1の細胞内移動を容易にモニターすることができます(図2)。分裂している細胞では、FOXO1はAKTによってリン酸化され、不活性型として細胞質に局在します(図2A)。AKT経路を阻害するとFOXO1はリン酸化されないため、細胞質ではなく核に局在します。PI3K阻害剤であるwortmanninの投与によってPI3K-AKTシグナル伝達系が阻害されると、細胞質から核へのFOXO1の移行が起こります(図2B)。Non-Targeting Control (NTC) siRNAを投与した細胞では、未処理細胞と同様にFOXO1は主に細胞質に局在しました(図2C)。各AKT遺伝子をsiRNAによって個別にノックダウンした場合、FOXO1は主に細胞質に局在し、核への移行は僅かしか起こりませんでした(図2E)。この結果は、PI3K-AKTシグナル伝達経路には機能的な重複があるという従来の知見を支持します(1)。AKT2、AKT3を同時にノックダウンした場合、未処理(UT)区と比較して、細胞質から核へのFOXO1の移行が6倍観察されました(図2E)。AKT1、AKT2、AKT3の全ての遺伝子を同時にノックダウンした場合、未処理(UT)と比較して、細胞質から核へのFOXO1の移行が10倍以上観察されました(図2D、E)。しかし、その移行はwortmanninを投与した場合の25%程度に留まりました。このことは、siRNAとwortmanninの生物学的レベルでの作用が異なることを示唆しています。たとえば、時間や効果が異なることが考えられます。また、Wortmanninは細胞毒性が強く、他のシグナル伝達系に非特異的な影響を及ぼすことが知られています。ここで示したU2OS FKHR Redistribution cell lineを用いた実験からは、細胞質から核へのFOXO1の移行は、3種類全てのAKTファミリータンパク質によって制御されており、とりわけAKT2、AKT3がより重要な役割を担っていることが明らかになりました。

図2 AKT活性の阻害あるいはAKT遺伝子のsiRNAによる発現抑制によるFOXO1の細胞質から核への移行の解析
Cellomics ArrayScan VTI HCS Reader(Thermo Scientific Cellomics) を用いたハイコンテントアナリシスによって、AKT経路を阻害したときの効果を、U2OS FKHR Redistribution cell lineを用いて詳細に解析しました(A-D)。未処理(UT)細胞(A)、150 µM wortmanninを24時間処理した細胞(B)、Non-Targeting Control (NTC) siRNAを処理した細胞(C)、AKT1、AKT2、AKT3遺伝子をターゲットとするON-TARGETplus SMARTpool siRNAをまとめて投与した細胞(D)の解析画像を示しました(siRNA投与から72時間後)。Redistribution V3 BioApplication Softwareを用いてFOXO1の細胞内移行を定量的に解析しました(E)。各処理細胞におけるFOXO1の核移行の程度を、Wortmannin処理細胞におけるFOXO1の核移行の程度に対する相対値で示しました。
まとめ
互いに配列相同性の高いファミリー遺伝子の発現をsiRNAによって特異的にノックダウンし、その発現レベルの低下を定量PCRによって測定するモデルケースとしてAKTファミリー遺伝子を取り上げました。AKT1、AKT2、AKT3 mRNAの配列相同性は高く、AKT1とAKT2は80%、AKT2とAKT3は70%、AKT1とAKT3は71%の相同性があります。AKT1mRNAおよびAKT3 mRNAにはスプライスバリアントがあります。実験では、ON-TARGETplus SMARTpool siRNAを用いて各AKT遺伝子のノックダウンを行い、FOXO1の細胞内局在性をモニターしました。また、各AKT mRNAの発現レベルをSolaris qPCR Gene Expression Assayを用いて測定しました。一連の実験から、AKT1、AKT2、AKT3ファミリータンパク質の全てがFOXO1の細胞内局在の制御機能を担うこと、またその機能には重複があることを明らかにすることができました。このように、さまざまな先進テクノロジーを取り入れたON-TARGETplus SMARTpool siRNA とSolaris定量PCR試薬を用いることによって、ファミリーを形成する遺伝子の個々の機能を解析できることが期待されます。
参考文献
- T. F. Franke, Oncogene 27, 6473 (Oct 27, 2008).






