Dharmacon テクノロジー
(神経芽腫細胞IMR-32におけるDharmacon Accell siRNAを用いたp53遺伝子の発現抑制)

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific Dharmacon製品を開発しています。
前回はsiRNAを用いたAKTファミリータンパク質によるFOXO1の制御機構解析をご紹介しましたが、今号では、神経芽腫細胞におけるAccell siRNAを用いたRNAi実験例をご紹介します。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)

はじめに

神経芽腫細胞や初代神経細胞は、癌や神経発達に関する基礎研究用のモデル細胞系として広く使用されています。しかし、神経芽腫細胞や初代神経細胞の多くについて、リピッドベースのトランスフェクション試薬による核酸導入効率が低いという問題があります。例えば、これらの細胞においてsiRNAを用いたRNAi実験を行うことは困難です。

Accell siRNAは、トランスフェクション試薬を用いずに細胞に導入することのできる全く新しいタイプのsiRNAです。Accell siRNAには特殊な化学修飾が施されたヌクレオチドを導入しており、結果として、さまざまな細胞に受動的に取り込まれます。従来トランスフェクション試薬による導入が困難であった細胞(初代培養細胞・神経細胞・免疫細胞など)での実験例も増えつつあり、お客様から注目されています。

今号のDharmaconテクノロジーでは、Accell siRNAの神経細胞への導入事例として、神経芽腫細胞IMR-32におけるAccell siRNA を用いたp53遺伝子の発現抑制をとりあげます。p53はDNA損傷薬やストレスに対する細胞応答を制御する癌抑制タンパク質です。p53は転写因子として働き、細胞周期・DNA修復の制御や、DNAが修復不可能な損傷を受けた場合のアポトーシス誘導など多彩な機能を担います(図1)(1, 2)。

図1 異なるストレスに対する細胞応答を仲介する癌抑制タンパク質p53

図1 異なるストレスに対する細胞応答を仲介する癌抑制タンパク質p53
細胞に各種ストレスを与えると、核内のp53タンパク質量が急増し、細胞周期停止・DNA修復を制御する遺伝子(p21Waf1/Cip1、GAD45α、14-3-3α)やアポトーシスを制御する遺伝子(Bax,、Apaf1、Casp-9)の発現が制御されます。

IMR-32細胞におけるAccell siRNAを用いたターゲットmRNAの効率的なノックダウン

神経芽腫細胞IMR-32へAccell siRNA を導入可能か調べるために、Accell siRNAを細胞に投与した際のGAPD (Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) およびp53遺伝子の発現抑制の効率と細胞生存率を評価しました。IMR-32では野生型のp53が発現しており、p53遺伝子をノックダウンした場合にDNA損傷応答への影響が解析できます。

Accell GAPD Control Pool (GAPD)、Accell Non-targeting Pool (NTC)、p53 mRNAをターゲットとするAccell siRNAを、Accell siRNA delivery media中でIMR-32細胞に導入しました。導入72時間後にターゲットmRNAのノックダウン効率および細胞生存率を評価しました(図2)。Accell GAPD Control Poolおよびp53 mRNAをターゲットとするAccell siRNAが、細胞生存率を下げることなくターゲットmRNAを効率的にノックダウンすることを確認しました。

図2 IMR-32細胞におけるAccell siRNAを用いたターゲットmRNAの効率的なノックダウン

図2 IMR-32細胞におけるAccell siRNAを用いたターゲットmRNAの効率的なノックダウン
1 µMのAccellコントロールsiRNA Pool(GAPD、NTC)およびp53 mRNAをターゲットとするAccell SMARTpool siRNA(p53 pool)あるいはAccell individual siRNA(p53 siRNA1、p53 siRNA2)を、Accell siRNA delivery media中でIMR-32細胞に導入しました。導入72時間後に、p53およびGAPDのノックダウンおよび細胞生存率を評価しました。全てのサンプルについて3回の導入実験を行いました。

Accell siRNAを用いたp53遺伝子の発現抑制による、カンプトテシン処理後のIMR-32細胞生存率の上昇

カンプトテシン(Camptothecin)といったDNA損傷薬を化学的感受性のあるヒト神経芽腫細胞株に投与すると、急速かつ激しいアポトーシスが起こります。また、ヒトパピローマウイルスtype16 E6タンパク質あるいはドミナントネガティブ型変異体p53(R175H)を用いたp53の機能抑制によって、野生型p53を持つ細胞株において薬剤誘導性のアポトーシスが阻害されます(3)。

Accell siRNAを用いたp53遺伝子の発現抑制によって同様の阻害が起こるのか調べるために、AccellコントロールsiRNA Poolおよびp53 mRNAをターゲットとするAccell siRNAをIMR-32細胞に導入しました。導入48時間後にDNA損傷薬であるカンプトテシンをさまざまな濃度で添加し、さらに24時間培養したあとに細胞生存率を評価しました(図3)。p53 mRNAをターゲットとするAccell siRNAの導入によってカンプトテシン誘導性の細胞死が阻害されることを確認しました。

図3 カンプトテシン処理後のIMR-32細胞生存率のp53ノックダウンによる上昇

図3 カンプトテシン処理後のIMR-32細胞生存率のp53ノックダウンによる上昇
1 µMのAccellコントロールsiRNA Pool(GAPD、NTC)およびp53 mRNAをターゲットとするAccell SMARTpool siRNA(p53 pool)あるいはAccell individual siRNA(p53 siRNA1、p53 siRNA2)を、Accell siRNA delivery media中でIMR-32細胞に導入しました。導入48時間後にDNA損傷薬であるカンプトテシンをさまざまな濃度で添加しました。導入72時間後に、位相差顕微鏡による細胞観察(A)およびresazurinアッセイ(B)によって細胞生存率を評価しました。

カンプトテシン処理によるp53 およびその下流ターゲットp21の誘導に関するハイコンテント分析

細胞内におけるp53タンパク質の蓄積量は、ユビキチン化およびそれに引き続いて起こる26Sプロテアソームによる分解によって、通常は低く抑えられています。しかし、細胞がストレスにさらされると、p53のユビキチン化は抑制され、p53は核に蓄積し活性化と安定化が起こります(4)。活性化されたp53は転写因子として機能し、細胞周期停止・DNA修復を制御する遺伝子やアポトーシスを制御する遺伝子の発現を制御します(図1)(5)。

Thermo Scientific Cellomics Multiplexed p53 and p21 Detection Kitを用いてAccell siRNAによるp53遺伝子の発現抑制の影響を調べました。具体的には、p53およびその下流ターゲットp21タンパク質の蓄積量をモニターしました。IMR-32細胞は培養プレートへの接着が不十分であることから、ハイコンテント分析を行うためには緩やかな固定が必要となりました。また、IMR-32細胞の接着性は、通常のAccell siRNAの導入条件では低いことが分かりました。

高濃度の血清はAccell siRNAの導入を阻害するため、Accell siRNA delivery mediaは血清を含みません。したがって、長時間の無血清条件に感受的な細胞株あるいはアッセイにおいては、細胞生存率の低下などの問題が生じるおそれがあります。そのような場合は、3%までの濃度の血清をAccell siRNA delivery mediaに添加することで、Accell siRNAの導入効率を下げることなく問題を解決できる場合があります。IMR-32細胞の場合は、2 %の血清をAccell siRNA delivery mediaに添加することによって、ターゲットmRNAのノックダウン効率を下げることなく細胞の接着性と固定を著しく改善することができました(図4)。

図4 低濃度の血清を含むAccell siRNA delivery mediaとAccell siRNAを用いた、IMR-32細胞におけるターゲットmRNAの効率的なノックダウン

図4 低濃度の血清を含むAccell siRNA delivery mediaとAccell siRNAを用いた、IMR-32細胞におけるターゲットmRNAの効率的なノックダウン
1 µMのAccell コントロールsiRNA Pool(GAPD、NTC)およびp53 mRNAをターゲットとするAccell SMARTpool siRNA(p53 pool)あるいはAccell individual siRNA(p53 siRNA1、p53 siRNA2)を、Accell siRNA delivery mediaあるいは2 %のウシ胎児血清を含むAccell siRNA delivery media中でIMR-32細胞に導入しました。導入72時間後に、p53およびGAPDのノックダウンを評価しました。

続いて、カンプトテシンによるp53およびp21タンパク質の誘導が、Accell siRNAによるp53遺伝子の発現抑制によってどのような影響を受けるかを調べました。予備実験から、4 µMのカンプトテシンによる18-22時間の処理が、IMR-32細胞におけるp53およびp21タンパク質の誘導に最適であることが分かりました。

Accell GAPD Control Pool (GAPD)、Accell Non-targeting Pool (NTC)、p53 mRNAをターゲットとするAccell siRNA (SMARTpoolあるいはindividual siRNA)をIMR-32細胞に導入しました。Accell siRNAの導入52時間後に4 µMのカンプトテシンを添加し、さらに20時間培養しました。Accell siRNAの導入72時間後に細胞を固定し、Cellomics Multiplexed p53 and p21 Detection Kitを用いてp53およびp21タンパク質を染色しました。Target Detection BioApplication software moduleを用い、ArrayScan VTI HCS Readerによって細胞を解析しました。細胞核に局在するp21およびp53タンパク質の蛍光強度の平均値を測定しました(図5A)。カンプトテシン処理によるp21およびp53タンパク質の誘導は、p53遺伝子の発現抑制によって阻害されることが分かりました。

カンプトテシン処理によるp21およびp53タンパク質の誘導にp53遺伝子の発現抑制が与える影響をより詳細に解析するために、Accell Non-targeting pool(NTC)あるいはp53 mRNAをターゲットとするAccell SMARTpool siRNAを導入した500個の細胞について、核のHoechst染色強度をp21およびp53タンパク質の染色強度に対してプロットしました(図5B)。Accell siRNAによるp53遺伝子の発現抑制によってp21およびp53タンパク質の染色強度が著しく低下したことから、p53遺伝子の発現抑制によって、カンプトテシン処理をしても細胞周期が停止しなくなることが示唆されました。

図5 ハイコンテント分析:カンプトテシン処理後のp21およびp53タンパク質発現量のp53遺伝子の発現抑制による低下

図5 ハイコンテント分析:カンプトテシン処理後のp21およびp53タンパク質発現量のp53遺伝子の発現抑制による低下
IMR-32細胞へのAccell siRNAの導入52時間後に4 µMのカンプトテシンを添加しました。カンプトテシン処理20時間後(Accell siRNAの導入72時間後)に細胞を固定し、Cellomics Multiplexed p53 and p21 Detection Kitを用いてp53およびp21タンパク質を染色しました。(A)はAccell siRNAを導入した細胞の核に局在するp21およびp53タンパク質の蛍光強度の平均値を、(B)はAccell Non-targeting pool(NTC)およびp53をターゲットとするAccell SMARTpool siRNA (p53 pool) を導入後カンプトテシン処理した細胞(500個)におけるHoechst染色強度をp21およびp53タンパク質の染色強度に対してプロットした結果です。

以上の実験から、Accell siRNAを用いたp53遺伝子の発現抑制によって、カンプトテシン処理によるp53依存性のDNA損傷応答が阻害されることを、神経芽腫細胞IMR-32において明らかにすることができました。

まとめ

リピッドベースのトランスフェクション試薬によるsiRNA導入効率が低いといわれる神経芽腫細胞においても、至適化された条件でAccell siRNAを用いることによってRNAi実験が十分可能であることが明らかになりました。次号のDharmaconテクノロジーでは、初代神経細胞におけるAccell siRNAを用いたRNAi実験例をご紹介します。

参考文献

  1. Vousden, K. H., and Lu, X. (2002). Live or let die: the cell’s response to p53. Nat Rev Cancer 2, 594-604.
  2. Helton, E. S., and Chen, X. (2007). p53 modulation of the DNA damage response. J Cell Biochem 100, 883-896.
  3. Cui, H., Schroering, A., and Ding, H.-F. (2002). p53 Mediates DNA Damaging Drug-induced Apoptosis through a Caspase-9-dependent Pathway in SH-SY5Y Neuroblastoma Cells. Mol Cancer Ther 1, 679-686.
  4. Lavin, M. F., and Gueven, N. (2006). The complexity of p53 stabilization and activation. Cell Death Differ 13, 941-950.
  5. Riley, T., Sontag, E., Chen, P., and Levine, A. (2008). Transcriptional control of human p53-regulated genes. Nat Rev Mol Cell Biol 9, 402-412.

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