Pierce 知っておきたい基礎技術(ファーウェスタンブロッティング法)

バイオ実験手法が開発された目的や原理を理解することは、研究目的に適した実験手法の選択や期待した実験結果が得られない場合の原因究明に役立ちます。
「Pierce知っておきたい基礎技術」のコーナーでは、はじめて新しい実験に取り組む方ならびに既に実験に取り組まれている方で改めておさらいしたい方を対象としてバイオ実験の基本手法やその原理を紹介していきます。

第7回目の今回は、ウェスタンブロッティングを応用した相互作用解析手法である「ファーウェスタンブロッティング法」について解説させていただきます。
(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 土持)

はじめに

ファーウェスタンブロッティング法は、タンパク質間相互作用解析をポリアクリルアミドゲル上で行う場合に利用されます。ファーウェスタンブロッティングはもともと、32P標識したグルタチオンS -トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質を用いてタンパク質発現ライブラリーをスクリーニングするために開発されました。現在では一般的にタンパク質相互作用の解析に用いられており、受容体とリガンドの相互作用解析やタンパク質ライブラリーのスクリーニングのほか、タンパク質間相互作用に及ぼす翻訳後修飾の解析にも使用されています。

ファーウェスタンブロッティングとウェスタンブロッティング

ファーウェスタンブロッティングはウェスタンブロッティングと検出方法がよく似ています。ウェスタンブロッティングではメンブレン上の抗原タンパク質を、抗原特異抗体を用いて検出します。一方ファーウェスタンブロッティングではメンブレン上のタンパク質を、そのタンパク質と相互作用する標識タンパク質を用いて検出するか、あるいはメンブレン上のタンパク質と相互作用する非標識タンパク質を介した標識抗体との反応を利用して検出します。ファーウェスタンブロッティングでは検出するメンブレン上のタンパク質を「prey」、prey タンパク質と相互作用するタンパク質を「bait」と呼びます。

ファーウェスタンブロッティングにおける重要なステップ

ゲル電気泳動

preyタンパク質の分子量情報を得るため、ウェスタンブロッティングと同様にタンパク質サンプルをSDS-PAGEを用いて分離します。ただしpreyタンパク質の変性が原因でbaitタンパク質との相互作用が検出できないことがあります。このような場合にはnative-PAGE(変性剤や還元剤を含まない条件のポリアクリルアミド電気泳動)を行うことで解決できる場合があります。

メンブレンへのトランスファー

ファーウェスタンブロッティングでは、preyタンパク質の相互作用ドメインがトランスファー時に変性していないことや、構造変化があってもメンブレン上でリフォールディングし、相互作用ドメインが正しく三次元構造を形成していることが必要です。メンブレン上でbaitタンパク質とpreyタンパク質との相互作用が検出できない場合には、メンブレンへのトランスファーを行わずに直接ゲル内で検出する方法(in-Gelファーウェスタンブロッティング)もあります。

ブロッキングバッファー

baitタンパク質(あるいは抗baitタンパク質抗体)がメンブレンやメンブレン上のタンパク質と非特異的に結合するのをブロックするだけでなく、preyタンパク質のリフォールディングに寄与することもあります。さまざまなブロッキングバッファーがありますが、すべての実験系に適したブロッキングバッファーはありません。また、ブロッキングが不十分なときバックグラウンドが高くなり、ブロッキング時間が長すぎるとシグナルが低下することがあります。ブロッキングバッファーは、検討中のプローブを阻害せず交差反応が起こらないバッファーを選択し、実際の実験を通してS/N比の優れた最適なブロッキング条件を検討します。

結合・洗浄バッファーの条件

preyタンパク質とbaitタンパク質との相互作用条件(pH、塩濃度、反応温度、反応時間など)は扱うタンパク質によって異なり、場合によっては別のタンパク質や補因子の共存といった特別な条件が必要になります。この条件は、ファーウェスタンブロッティングのステップ全般にわたって関係するため、洗浄バッファーについても条件をあわせる必要があります。

コントロール

ファーウェスタンブロッティングでは、preyタンパク質の変性によってbaitタンパク質との相互作用が検出できなくなる可能性や、逆にアーティファクトな相互作用を検出してしまう可能性があります。検出結果がpreyタンパク質とbaitタンパク質との相互作用によるもので、非特異的な反応ではないことを確認するために、常に適切なコントロール実験が必要となります。例えば、相互作用ドメインに対するbaitタンパク質のミュータントをネガティブコントロールとして使用できます。ミュータントが無い場合には、preyタンパク質と同じくらいの分子量や電荷を持ち、baitタンパク質と相互作用しないタンパク質がネガティブコントロールとして有用です。また、GST融合タンパク質との相互作用検出を行う場合にはGSTのみをネガティブコントロールとして使用することもあります。標識ストレプトアビジンを用いてビオチン化baitタンパク質と反応させる場合には、baitタンパク質を反応させずに標識ストレプトアビジンのみを反応させることで、標識ストレプトアビジン由来の非特異的な相互作用が明らかになります。

最後に

タンパク質相互作用解析は、個々のタンパク質機能、細胞内タンパク質ネットワーク、さらには細胞内プロセス(細胞周期のコントロール、細胞分化、シグナル伝達、転写、翻訳、翻訳後修飾、輸送など)を解明する上で重要な研究手法です。今回は、広く利用されている免疫検出技術のひとつであるウェスタンブロッティングを応用した相互作用解析法として、ファーウェスタンブロッティング法を紹介しましたが、相互作用解析法には他にもさまざまな手法が開発されています。
次回より数回にわたってin vitro相互作用解析法について解説させていただきます。

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