Thermo Scientific PCR関連製品
(Phusion Blood Direct PCR Kitを用いたFTAカード・903カードに保存した血液サンプルからのダイレクトPCR法)

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific製品を開発しています。Phusion Blood Direct PCR KitはDNAの抽出・精製をせずに全血液から直接DNAを増幅するためのキットです。今号では、Phusion Blood Direct PCR Kitを用いてWhatman FTAカードや903カードに保存した血液サンプルから直接DNAをPCR増幅する方法を紹介します。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)

はじめに

ペーパーカードは室温で長期間サンプルを保存することができ、また操作も簡単であることから、サンプル保存の目的で一般的に用いられています (1,2)。しかし、これらのカードには酵素反応を阻害する物質が含まれていることが多く、PCRに用いる場合には、反応前に特別な抽出バッファーやプロトコールで処理する必要があります。Phusion Blood Direct PCR Kitに含まれるPhusion Blood DNA Polymeraseはユニークなホットスタートタイプの酵素で(3)、血液や保存カードに含まれるさまざまな阻害物質の共存下でもDNA増幅を可能にする2本鎖DNA結合ドメインをもっています。また本キットには、サンプルの保存方法やサンプル採集時に使用する血液凝固剤の種類にかかわらず、DNA増幅が可能な試薬が含まれています。今号では、Whatman 903カード、FTA Elute/FTA Geneカードに保存した血液サンプルからゲノムDNAをPCR増幅する方法を紹介します。

材料と方法

  • Phusion Blood Direct PCR Kit
  • Piko Thermal Cycler
  • UTW(超薄壁) チューブあるいはプレート
  • プライマー:
    ヒトCathepsin K遺伝子断片(506 bp)をターゲット
    F: GAGAATCGCTTGAACCCGGGAGGTGTAGGT 30 nt Tm 78.1ºC
    R: CCTGCTGATGCCTGGCCTCTTTCTTCTTTG 30 nt Tm 78.1ºC

    ヒトglutathione peroxidase 3遺伝子断片(1020 bp)をターゲット
    F: CATCAGCCCGTCTAGGAACCCAGTCATCAG 30 nt Tm 77.6ºC
    R: CTCCTTCATCCCGCTACACCACGCATACAC 30 nt Tm 77.9ºC

    ヒトbeta-globin遺伝子断片(3.8 kb)をターゲット
    F: GCACTGGCTTAGGAGTTGGACT 22 nt Tm 65.9ºC
    R: ACAGACACCCAGGCCTACTTG 21 nt Tm 65.6ºC

    ヒトbeta-globin遺伝子断片(7.5 kb)をターゲット
    F: GCACTGGCTTAGGAGTTGGACTTCAAACC 29 nt Tm 73.9ºC
    R: CAACTGCTGAAAGAGATGCGGTGGG 25 nt Tm 75.1ºC

    ヒトSOX21遺伝子の5'領域(237 bp)をターゲット
    (Phusion Blood Direct PCR Kitのコントロールプライマー)
    F: AGCCCTTGGGGASTTGAATTGCTG 24 nt Tm 73.5ºC
    R: GCACTCCAGAGGACAGCRGTGTCAATA 27 nt Tm 72.2ºC/75.3ºC (R=A/G)

サンプル調製

新鮮な血液、および抗血液凝固剤としてheparin (1.4 IU/mL)、あるいはEDTA (1.8 mg/mL)、クエン酸ナトリウム (109 mM)を添加した血液をWhatman 903カード、FTA Elute カード、FTA Geneカードへ染み込ませ、カードの使用説明書の方法に従ってサンプルを乾燥させました。カードから1 mm ディスクをパンチアウトし、ダイレクトPCRを行ないました。各カードを使用したPCRの反応容量は以下の通りです。

  • Whatman 903: 10-50 μL
  • Whatman FTA Elute Card: 25-50 μL
  • Whatman FTA Gene Card: 50 μL

より大きなパンチアウトカードを用いる場合や、より少量の反応系でPCRを行なう場合には、パンチアウトカードを20 μLの水に入れて50ºCで3分インキュベートし、水を除いてからPCR溶液に直接加えました。

Fig.01

図1 PCR溶液の調製法
*詳細についてはPhusion Blood Direct PCR Kit manual をご参照ください。

Fig.02

図2 PCRのサイクル反応条件
*プライマーのTm値がTm calculatorで69-72℃になる場合には、2ステップ法でPCRを行なっています。また、両プライマーが20 mer以上の場合には、Tm値が低いほうのプライマーのTm値よりも3℃高い温度でアニールさせました。プライマーが20 mer以下の場合には、Tm値が低いほうのプライマーのTm値をそのままアニール温度に使用しました。
**伸長反応の時間はPCR産物が1 kb以下の場合には15秒、1 kb以上の場合には30秒/kbの割合で時間を増やしました。

結果

Phusion Blood Direct PCR Kitを用いることで、さまざまなカードに保存した血液サンプルから直接PCRによってDNAを増幅できることが分かりました(図3)。 PCRにはそれぞれ直径1 mmサイズのパンチアウトしたカードを用いました。903カードではほとんど反応は阻害されず、10 μLの容量で反応させてもDNAを増幅できました。 一方、FTA Eluteカードでは10 μL反応系では全く増幅されず、25-50 μLの反応系で若干反応が阻害される程度にDNAを増幅できました。FTA Geneカードでも同様に増幅されず、50 μL反応系で結果が得られました。FTA Eluteカード、FTA Geneカードを小容量で反応させる場合には、シンプルなクリーンアッププロトコールによって阻害物質を除去する方法が有効であることが分かりました。パンチアウトしたカードを滅菌蒸留水で3分洗浄した後にPhusion Blood Direct PCR Kitで直接PCRを行ないました(図3)。また、カードサンプルからロングPCRもできることがわかりました。1 mmサイズの903 カード、クリーンアップしたFTA EluteカードおよびFTA Geneカードを50 μLの反応系に加えて、それぞれ1 kb、3.8 kb、7.5 kbのPCR産物が得られました(図4)。さらに、Phusion Blood Direct PCR Kitはさまざまな生物種の血液で使用でき、SOX21遺伝子の上流領域にきわめてよく保存された237 bpの領域を(4)、903カードとFTA Geneカードに保存したさまざまな生物種の血液から増幅することができました(図5)。

Fig.03

図3 ヘパリン処理し、カードに保存したヒト血液サンプルからの直接PCR増幅

反応は1 mmパンチのカードを簡易クリーンアップしてから反応系に加えたものと直接反応系に加えたもので行ないました。PCR産物のサイズは500bp、反応系は50、25、10 μLで行ない、材料と方法に記載した2ステップ法でPiko Thermal Cyclerと専用のUTW reaction vesselsを用いました。PCRが終了するまでに要した時間は30分です。

Fig.04

図4 EDTA処理し、カードに保存したヒト血液サンプルからの直接PCRによるさまざまなサイズのDNA増幅

50μL反応系に1mmパンチカードを入れて行ないました。FTA Geneカードから7.5kbのPCR産物を増幅する場合には材料と方法に記載した方法で、PCR前に簡易クリーンアップしています。1 kb と7.5 kbのPCR産物には2ステップ法、3.8 kbのPCR産物には3ステップ法でPCRを行ないました。PCR装置にはPiko Thermal Cyclerを使用し、専用のUTW reaction vesselsで反応を行なっています。反応に要した時間は1 kbのPCR産物では30分、3.8 kbのPCR産物では1時間35分、7.5 kbのPCR産物では2時間33分かかりました。

Fig.05

図5 EDTA処理し、カードに保存したいくつかの哺乳動物血液サンプルからの直接PCR増幅

Phusion Blood Direct PCR Kitを用いて20μL反応系に1 mmパンチカードを入れて行ないました。FTA GeneカードからPCR産物を増幅する場合には反応前に簡易クリーンアップしています。PCR装置にはPiko Thermal Cyclerを使用し、専用のUTW reaction vesselsで反応を行なっています。反応に要した時間は30分です。精製したヒトゲノムDNAをポジティブコントロールとして用いています。

考察

血液サンプルの保存に使われているカードから直接DNAを増幅する場合、血液サンプルやカードに含まれている反応阻害物質の影響でPCRがうまくいかないことがあります。従来からの酵素を用いてPCRを行う場合には、PCRの前に完全にこれらの阻害物質を除いておく必要がありますが、Phusion Blood Direct PCR Kitを用いて、Whatman 903、FTA Elute、FTA Geneカードに保存した血液サンプルからPCRを行う場合には、簡便なクリーンアップを行なうだけでPCR産物を得られることが分かりました。PCRは50 μL反応系に1 mmサイズのパンチアウトしたカードを使用するだけです。また、小容量の反応系でPCRを行なう場合には、903カードはそのまま使用することができ、FTAカードでは簡便なクリーンアップが必要になります。Piko Thermal CyclerとUTW(Ultra Thin Walled) reaction vesselsとの組み合わせによって、サンプル精製することなく、短時間で高収量のPCR産物を得ることができます。

文献

  1. Kline M.C. et al. (2002) Anal. Chem. 74: 1863-1869.
  2. Makowski G.S. et al. (2003) Ann Clin Lab Sci. 33: 243-250.
  3. Wang Y. et al. (2004) Nuc. Acids Res. 32:1197-1207.
  4. Woolfe A. et al. (2005) PLoS Biology 3: 116-130.