Thermo Scientific PCR関連製品
DyNAzyme II DNA Polymeraseを用いた高温でのFast PCR

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、さまざまなテクノロジーを応用して、お客様のニーズに応えるThermo Scientific製品を開発しています。 遺伝子組み換え型の耐熱性DNAポリメラーゼであるDyNAzyme II DNA Polymerase は、Taq DNAポリメラーゼとくらべて、PCRサイクルの変性ステップでの熱安定性やDMSOに対する耐性がより高い酵素です。今号では、Piko Thermal Cyclerおよび専用のUltra-Thin Wall (UTR) PCR vesselsと一緒にDyNAzyme II DNA Polymeraseを用いて行うFast PCRのプロトコルを紹介します。

(執筆担当 サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)バイオサイエンス事業本部 広瀬)

はじめに

好熱細菌Thermus aquaticus由来のTaq DNAポリメラーゼが最もPCR実験で用いられてきました。その一方で、Taq DNAポリメラーゼよりも優れた性能を持つDNAポリメラーゼが発見され、また遺伝子組換えなどによって開発されてきました。弊社のDyNAzyme II DNA PolymeraseはThermus brockianus 由来の遺伝子組み換え型DNAポリメラーゼで、1991年に発売されました。DyNAzyme II DNA Polymeraseは、94℃以上での熱安定性がTaq DNAポリメラーゼよりも優れるため、より高温での効率的な熱変性が可能です。高温の変性ステップは、GC含量の高い、あるいは極端な2次構造を持つターゲット配列のPCR増幅効率を高めることができます(1)。また多くのPCRにおいて、DyNAzyme II DNA Polymeraseは、プロトコルに変更を加えることなくTaq DNAポリメラーゼの代わりに用いることができます。Piko Thermal Cyclerと専用のUTR PCR vesselsを組み合わせDyNAzyme II DNA Polymeraseを用いてPCRを行うことにより、短いターゲット配列については約40分の短時間で増幅できます。今号では、DyNAzyme II DNA Polymeraseを用いたFast PCRの実験例を紹介します。

DyNAzyme II DNA Polymeraseを用いたFast PCR

DyNAzyme II DNA Polymeraseは、Fast PCR対応サーマルサイクラー(今号で紹介する実験で使用したPiko Thermal Cycler のように、1秒あたり4℃あるいはそれ以上の平均ランプ速度を維持することのできる装置)でPCRを行うのに適しています。通常のサーマルサイクラーでDyNAzyme II DNA Polymeraseを用いる場合は、スタンダードな反応条件でPCRを行うことをおすすめします。Piko Thermal Cyclerと専用のUTR PCR vesselsを組み合わせて用いることで、PCRサイクルにおける変性ステップとアニーリングステップに要する時間を短縮することができ、他社製のFast PCR対応サーマルサイクラーと比較して1/2から1/5の短時間の反応条件をセットアップすることができます。また超短時間のPCRでも、サンプルブロック内の全てのウェルで再現性の高い増幅結果を得ることができます。

材料と方法

  • DyNAzyme II DNA polymerase (F-501)
  • 10x Optimized DyNAzyme Buffer
  • 10 mM dNTP Mix
  • 精製したヒトゲノムDNA (50 ng/μL)
  • Piko Thermal Cycler
  • UTW(超薄壁) チューブあるいはプレート
  • プライマー:
    • ヒトglutathione peroxidase 3遺伝子断片(588 bp)をターゲット
    • Forward TGTGGCGGTCTAGGGTGTATT 21nt Tm 65.7
    • Reverse GGTGGGCTGGTCGTGATG 18nt Tm 68.4
    • ヒトglutathione peroxidase 3遺伝子断片(1217 bp)をターゲット
    • Forward CTGACCCCCACTATCCCTTGACA 23nt Tm 70.3
    • Reverse CTTGGACTGGCCCTTTCTTTTCTT 24nt Tm 68.3

Fig01

図1 PCR溶液の調製法

Fig02

図2 PCRのサイクル反応条件(Piko Thermal CyclerとUTW PCR vesselsを組み合わせて用いた場合のみに適用)
*nearest neighbor法により計算したプライマーのTm値よりも5℃低い温度をアニーリング温度としておすすめします。

結果

Glutathione peroxidase 3遺伝子の1.2 kbの断片をターゲットとするPCR増幅を行いました(図3)。PCR溶液の調製は表に示した方法で行いました。DyNAzyme II DNA Polymeraseを高温条件で用いた場合のPCR増幅の収量がTaq DNAポリメラーゼと比較して高いことが確認されました。PCRに要した時間は57分でした。 glutathione peroxidase 3遺伝子の0.6 kbの断片をターゲットとするFast PCR増幅を行いました(図4)。PCR溶液の調製は表に示した方法で行いました。DyNAzyme II DNA Polymeraseを用いた場合のPCR増幅の収量性がTaq DNAポリメラーゼと比較して高いことが確認されました。

Fig03

図3 DyNAzyme II DNA PolymeraseおよびTaq DNAポリメラーゼを用いたスタンダードあるいは高温条件でのPCR増幅の比較
スタンダードPCR用サイクリング条件:1サイクル目を 94℃で2分行い、次に94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で72秒間を30サイクル行いました。最後の伸長反応は72℃で5分行いました。PCRに要した時間は90分でした。高温の変性ステップを取り入れた短時間でのPCR用サイクリング条件:1サイクル目を 96℃で30秒行い、次に 96℃で10秒、65℃で15秒、72℃で48秒を30サイクル行いました。最後の伸長反応は72℃で1分行いました。

Fig04

図4 DyNAzyme II DNA PolymeraseおよびTaqDNAポリメラーゼを用いたFast PCRによる増幅の比較
サイクリング条件:1サイクル目を 96℃で30秒行い、次に 96℃で5秒、60℃で10秒、72℃で24秒を30サイクル行いました。最後の伸長反応は72℃で3分行いました。PCRに要した時間は41分でした。

考察

DyNAzyme II DNA Polymeraseは、Taq DNAポリメラーゼが用いられている標準的なPCR実験で使用することができます。今号では、DyNAzyme II DNA Polymeraseの高い熱安定性を利用して、より高温かつ短時間の変性ステップを取り入れたPCRプロトコルを作成し、その有効性を確認しました。Piko Thermal Cyclerおよび専用のUTR PCR vesselsと一緒にDyNAzyme II DNA Polymeraseを用いることで、PCR増幅の収量性を維持しつつプロトコルに要する時間を短縮することが確認できました。

文献

  1. Dutton, C. et al . (1993)"General method for amplifying regions of very high G + C content". Nucleic Acids Research , Vol. 21, No.12, pp 2953-2954.